見出し画像

ポケットの中の欠片 |アクセント・メジャー 1996

僕は多分30代の頃からデザインだけではなく販売もする体勢でありたいと思っていた。イッセイミヤケとの交流があったせいだと思うのだが、ファッションの業界のように、そして、昔の職人のように、デザインして、製造して、生活者に手渡すところまでするのが一番いいと思っていた。原初思想を考えるようになってから分かってきたのだが、僕の思想はその時代のたくさんの人々との共振によって生まれている、ということであり、人間は一人では生きられない、多くの人々と群れ社会を形成して生きているということである。

近代以後、自己を持てと社会全体が僕たちに要求していた。個性を持て、オリジナリティが大切だ、君のアイデンティティは何なのだ?と問いかけられていた。でも、それは西洋の思想だったのだ。いや、西洋の思想となっているキリスト教の思想であり、それが影響を与えた近代思想の要求だったのである。

僕は今、こう思っている。僕は人の群れの一員である。自分自身の思想や意見は群れのすべて人々の意思が反映して出来ている。そもそも、人間の他の人間との相違は遺伝子で0.1%でしかないのである。小さな相違はあっても大きく異なることなどあり得ない。僕の思うことは他の多くの人が思っていることと大きく異なることはあり得ない。そして、そのような状況を得るためには、情報ルートを多く持つことである。自分の立場を超えて足を踏み出して多くの人の中で感じ考えることであるということなのだ。

ファッションデザインが新鮮なのは自ら製作し販売もしているからではないか、と感じていた。僕もそうありたいと思っていた。40歳の頃にはもうK inc.という会社を作っていた。僕がデザインするものを販売する会社である。経営はうまくは行かないのだがとにかく、自分の作りたいものを作り世界に販売できる。これは実に気持ちがいい。

そんな思想の持ち主だから僕は僕のためにデザインしている。僕が欲しいものを作る。これほど純粋なデザインの姿勢はない。僕は日本人だから日本人のことが分かっている。僕の思想は群れを形成する他の人々と共振しあっているのだからそれらの人の思想でもある筈だと僕は思っている。何か問題があれば、それは僕の情報システムに問題があるのだと思っている。それを修理し、作り変える。

要するに、僕はデザイナーとして他の会社からの依頼にも答えているのだが、同時に、自分の会社のためにもデザインもしている。
このアクセント・メジャーは販売会社である株式会社Kのためにデザインし、製造している。在庫は自分で負担しなくてはならない。スイスの友人の会社の依頼もあって、大量に生産したのだが、発注がキャンセルされてそのまま自分で負担したりもしている。

画像1

球体の断片を2枚合わせた形をしている。エッジは尖っていてすべすべの小さな切れ端のような製品であるからポケットの中での違和感がない。日本の友人だった小さな会社にお手伝いいただいて中国で生産している。1回目の納品は不良品が多かったが全部やり直して今ではきちっとしたものになっている。デザインするだけではなく、販売もするとなると責任も生まれて気持ちがいい。

「つくる」とは「デザイン」して「製造する」ことだが、それを欲している人に「手渡す」ことで初めて、この「つくる」行為は完結する。本当は「つくる」前に、誰かが「欲しい」と欲することが隠れている。その欲することを僕自身がしているのだ。僕が欲しい物を作るとはそんな意味が込められている。

アクセント18

アクセント14

画像4

画像5

画像6

画像7

ABOUT

「未来への遺言」
黒川雅之が語るデザインの背後にある物語。毎週金曜日 Youtube / Note / Instagramにて配信中。

●Youtube / 未来への遺言
思想と作品の裏にあるストーリーを毎週、映像でお届けします。
https://www.youtube.com/channel/UCEGZr5GrqzX9Q3prVrbaPlQ/

●Note / 黒川雅之
映像では語り切れない、より詳細なストーリーを毎週、記事でお届けします。
https://note.com/mkurokawa

●Instagram / 100 DESIGNS
プロダクトや建築の作品写真を中心に魅力的なビジュアルイメージをお届けします。
https://www.instagram.com/100designskk/

●Facebook / KK
黒川雅之が代表を務めるデザインカンパニーK&Kの公式Facebookページです。展示会や日々のデザイン業務などについての最新情報を更新しています。
https://www.facebook.com/kandkcompany/

《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

クレジット

タイトル写真:調査中

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?