見出し画像

プールのリビングルーム |伊東の温泉付き別荘

人間は常に新鮮な刺激を求めている。生命は本質的にいつも変わらないことを嫌っている。人間は動いていないと死んでしまうという宿命を背負ってもいる。
筋肉も骨も刺激を与え続けないと細胞が分裂しないのだ。だから怪我や病気で寝ている時間が長いとどんどん退化していってしまう。人間の身体は最初から不安定構造体で常に筋肉を緊張させてバランスを保っている。筋肉を弛緩させると倒れてしまうのだ。

人間はどうやら常に動き回っていることが正常で生命が活力を持つものらしい。子供がじっとしていないのはそれを表している。そんな人間だから常に刺激を求めるのだろう。季節に季節の食べ物を競って食べるのも、季節の変化を楽しむのも、新しい人と出会う喜びも、様々な文化に触れる感動も人間の宿命的とも言える生命の欲求なのだろう。旅のよろこびもそれだし、仕事の歓びもそれだ。仕事をしていると様々な新しい人に出会い、思想に出会い、新鮮な文化に触れる、新しい発想が生まれそれに興奮もする。新鮮な感動が生命を活性化するのだろう。

デザインをしていると新しいものを求められる。それは当然なのだろう。新鮮な感覚や新鮮なアイディアが人々を刺激して製品だって売れるのだから新しいデザインを求めるのは当然である。しかし、新しいものをもとめて探し始めると外ばかり見ることになる。街を歩き映画を見て時代の変化を敏感に感じて人々が感動するなにかを探そうとし始めるとどんどん自分がなくなっていく。外を見るのではなく、自分の内側を見ることで時代を追いかけるのではなく時代を創る新しい発想が生まれる可能性がある。

新鮮さとは人間とはなにかを探るところから見えてくるものなのだ。新しい発想は外からではなく、内側から生まれてくる。それも若いから新鮮なアイディアが出るわけではない。年齢の新鮮さは人間的な深さがなければ発想の新鮮さにはつながらないのだ。古代エジプトや古代ギリシャの遺跡や生活を見ると感動する。その感動とは人間への感動でありその文化への感動である。原初的な思想を探っていると実に現代的な思想がその中に見えてくる。初めの人間、原初的な人間はその後の様々な文化の影響を受けていないから新鮮なのだ。人間は沢山の情報に汚されている。そう結論づけていいだろう。その影響が新鮮だった原初的な人間を様々に色付けしている。
まっさらな人間が時代とともに偏った思想や感情をもつようになる。僕は創造的であるとはそのような余分な経験や思想の影響を削ぎ落とすことだと思っている。

新鮮なアイディアは自分の中の汚れた感性を洗い落として原初的な人間の率直さを手に入れることではないかと思っている。
この建築は「伊東にある土地に普通じゃない別荘をつくりたい」という設計依頼から始まっている。別荘とはこういうものだという思い込みを全部すてるところから始まっている。温泉がついたこの土地から、リビングルームそのものを温泉プールにする家をつくることになった。プールサイドで食事をする・・・客も裸になって過ごす家である。飽きたら床を貼ればいい。

水とともに過ごす家である。

画像1

画像2

画像3

画像4

ABOUT

「未来への遺言」
黒川雅之が語るデザインの背後にある物語。毎週金曜日 Youtube / Note / Instagramにて配信中。

●Youtube / 未来への遺言
思想と作品の裏にあるストーリーを毎週、映像でお届けします。
https://www.youtube.com/channel/UCEGZr5GrqzX9Q3prVrbaPlQ/

●Note / 黒川雅之
映像では語り切れない、より詳細なストーリーを毎週、記事でお届けします。
https://note.com/mkurokawa

●Instagram / 100 DESIGNS
プロダクトや建築の作品写真を中心に魅力的なビジュアルイメージをお届けします。
https://www.instagram.com/100designskk/

●Facebook / KK
黒川雅之が代表を務めるデザインカンパニーK&Kの公式Facebookページです。展示会や日々のデザイン業務などについての最新情報を更新しています。
https://www.facebook.com/kandkcompany/

《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

クレジット

タイトル写真:調査中

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?