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広場の中の金属の屋根| ヨットハーバーと公衆便所 風の翼 2000

僕はこれまで、建築とプロダクトの中間的な存在の設計をいくつかやっている。数多く、と言ってもいいかも知れないほどである。これまで報告した、21世紀を記念する富山県の「風と光の塔」もそうだし、千葉県のポートタワーとテント構造の野外劇場もそうである。プラスティックの建築「パンドラ」、アルミニュームの建築、自分たちでつくったSYSTEM-CUBEは自分の別荘だから実験ができたのだが、これだって10坪程度の小さな建築であり、プロダクトとの中間的存在である。中間的だから製造する企業も中間的になる。パンドラはテント構造の太陽工業だったし、アルミニュームの建築はカーテンウォールの会社である。

ここで表現する建築は公衆便所だ。広い公園の片隅に得意な印象をもつように、まるで航空機の胴体のような金属の筒状の屋根を持っている。近くのヨットハーバーに艇庫とクラブハウスを設計しているが、その一環でこの公衆便所も建設された。設計はいずれも建築的であるよりプロダクト的と言うべきだろう。

公衆便所はどうしても不衛生になりやすいし、犯罪の温床になりやすい。閉鎖的で人も少ないのだから当然危険性がある。その上、一部の人達の使い方や管理の不十分さが不衛生にする。これを避けるために開放的な建築にしている。風が通り過ぎる。プライバシーを重視してはいるた可能な限り開放的でありたいと大きなシリンダー状の金属屋根に覆われた木陰のような建築である。

艇庫とは別につくったクラブハウスは、フラットな金属屋根の木陰のような建築である。多くは屋外でクラブハウス棟とトイレの棟が大屋根の下に点在する構成になっている。金属の柱はまるで林の幹のようでもある。灼熱の太陽のもとで海で過ごし、帰ってきて木陰で憩うというストーリーである。

共通する発想は、木陰のような空間とその下の空間の群れという発想である。
大きく分けて二つの世界感がある。世界は一つでそれが複数に分かれて構造化されているという世界観で、組織や装置はこれに属する。もう一つの世界観は、初めから複数の空間や部品の群れで世界ができていると考える世界観である。
このクラブハウスと公衆便所は後者に属している。そこには全体を覆う膜がない。いずれも金属の樹林のような木陰がありその下に必要な部屋が散りばめられている。どちらの建築も風通しがいいのはそのためである。
プロダクトでは、自動車は世界は一つと考える世界観であり、オートバイは世界や部品の群れだと考える世界観と言えよう。

図は左が群れの世界観、右は世界は一つと考える世界観、真ん中はその二つの世界感の中間的存在で、これから重要な意味をもつことになる第三の世界観だと思っている。付加型といい、容易に群れに回帰できる自由な関係でつながっている。レヴィ・ストロースのブリコラージュとは、この関係を言っているのではないかと思っている。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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