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パイプにパイプが絡む| 洋服ハンガーと照明器具

パイプで何かを構成することは当たり前になるほど多いのだが、本当に美しい表現に出会ったことがない。
この洋服ハンガーやアッパーライトの照明器具はその最も完璧な回答ではないかと自画自賛している。パイプを曲げただけで相手のパイプに絡ませて溶接するという簡単な構成である。

このような設計に理屈はない。パイプは丸いから何を繋ぐにもその接合点がうまく行かない。美しくならないのだ。
こうして接合するべき相手のパイプをパイプの直径に合わせて曲げておけばいいだけなのだ。パイプにパイプが絡むだけで美しい構築体が生まれることになる。

シンプルな発想だからデザインも詩的になる。すべてのパイプが床に対して垂直、水平ではないからエキセントリックになる。動的になり、安定しているが非対称で動きがある。僕は美は反抗と葛藤にあると言っている。ヨーロッパのように美は調和にあるという考え方には反対を唱えている。ヨーロッパの美意識はキリスト教的である。しかし、日本の美意識は原初的で世界にまだキリスト教が生まれる以前の美意識と同じであり、僕はそれを原初的な美意識と言っている。

美とは何だろう?美はどきどきすることであり感動である。感動とは「いのち」である。美はいのちを感じさせ、生命的なことを言うのだと考えてもいい。それでは生命とはなにだろう?福岡伸一さんは「タンパク質の流れの淀みだ」と言っている。人間の細胞の中を流れるタンパク質の流れの淀みであり動的平衡の状態だという。また、こうも言う。すべての物はエントロピーが増大して破綻すると。生命も、細胞もエントロピーの増大とともに滅びるのだが、生命は細胞分裂と遺伝子を継続させることでエントロピーの増大に反抗しているという。

生命は反抗している。美もまた反抗していることに関係している。
禅では自然の流れに流されるもよし逆らうもよし、というのだが、僕はこう言いたいと思っている。美しく生きるとは「流れに逆らいながら流される」ことだと考えている。

デザインという行為はそんな感覚の行為である。そして、この作品はそんな感じがするのである。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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