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完全な形を壊す |HAKO展のためのHAKO 1992

ヨーロッパではキリスト教が人間の内的世界も外的世界も決定づけている。ヘレニズムとヘブライズムの二つの文化が支配しているといい。ヘレニズムの「知」とヘブライズムの「信仰」が葛藤を生み出してあのヨーロッパの壮大にして華麗な文化を作り上げているのだが、僕たちアジアの人々は神が世界をつくり、人間をつくったと考えるキリスト教徒たちと違い、むしろ、人間が自然への畏怖の感覚から神々、八百万の神を想像し神々の概念をつくりあげたと考える。

常に自然があり、しかも全体的な視線をもたなかった原初的な思想からは世界は未知の渾沌としか理解しない。しかも人間自体がその未知の渾沌に埋没しようとしていた。渾沌とは生命的なものなのだが、その混沌を受容しながら渾沌に反抗することで人間は意味を持つのだと、人々は思っていたと僕は考えている。

渾沌とは生命であり、知はむしろそれに逆らうものと考えているのだが、人間はこの自然の大きく偉大な力に抗いながら流されている。この宿命的なものを肯定しながらも逆らい続けることに人間の人間としての生き方があると思っている。美とは流されながら逆らうことなのだ。寛容と矛盾の中にあって葛藤することだった。

そんな思想を持つ僕は幾何学に敬意をもち憧憬しながらそれを破壊することに僕の人間的存在意義があると思ってもいる。そこからこの箱のデザインが生まれている。

球体は宇宙の形である。幾何学的で人工的にみえるのだが自然こそが幾何学だった。その幾何学を受容し肯定しながら反抗することが人間としての「生」を意味していた。「破綻的行為」、カタストロフィへ向かう行為は創造につながっている。死が生命的であるように破壊もまた創造にちがいない。

球体を描きながらそれを断片にする。この作品は断片化した球体の箱である。
ある時、「箱展」に招かれた。箱は豊かな物語性を持ったテーマである。箱入り娘、パンドラの箱、玉手箱など神秘的でさえある。建築は生活の箱だし、建築は箱から脱出しようともがきながら脱出できないでいる。

そんな箱への想いを持ちながら構想したのがこの「球体の断片」だった。デザインは理論でもあり同時に詩でもあるのだ。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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