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椅子に追従するテーブル |トライポッド 2011

小さいテーブルである。普通、テーブルは人のところに近づいてはくれない。人がテーブルの周りに集まってくる。テーブルはそんな人の集まる
拠点である。しかし、このトライポッドはその逆を考えている。人が居てそこにテーブルがやってくる。人がいればいろいろなものがある。タバコだったり、コーヒーだったり、本だったりだ。それを置くためのテーブルがやってくるのだ。

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リビングルームが日本で普通になったのはいつ頃だっただろう。僕の田舎の茅葺屋根の家では僕が大学生のころに囲炉裏が潰されてリビングルーム
ができた。ソファの父の座る場所があってそこにいる父のイメージが脳裏に焼き付いている。それが家の原型になって今でもリビングルームが家の中心のようなのだが、そこはほとんど家族の会話の場所じゃなくてテレビ視聴室になった。団欒はやはりダイニングルームだろう。

リビングルームのテーブルは象徴になった。コーヒーを置くにもちょっと遠すぎる。書籍や新聞を置くだけの場所になった。僕が設計する住宅ではリビングルームのためのテーブルを無くそうと提案している。ソファも無ければ一番いい。ラウンジチェアとトライポッドのような小さなテーブルだけでいい。そこにはティッシュペーパーからコーヒーや書籍、テレビのコントローラまで置くことになる。手元にあるから使いやすい。一人に一つか二人に一つのトライポッドが置かれる。

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今、東京では個家族が50%を超えたという。離婚した人、一人になった老人、学生などの独身者だ。それが50%とも60%とも言う。僕の大学生の時代には平均的な家族のイメージは両親と子供二人の四人だった。それが三人になり、今では一人が多いのだ。当然、住宅のイメージはすっかり変わることになる。家族の会話スペースはいらなくて友達が来た時のスペースになる。ダイニングルームなどキッチンの一部でいいことになる。個室が家の基本になるのだ。

その上、家族関係のイメージも変わってきた。一人ひとりが自立して人間関係をもっている。SNSなどで幅広い関係が一人だけの家族に見えても広がっている。テレビは一人一つになり、或いはコンピュータが中心になってテレビは年寄りのものになりつつある。
そんな家族は一緒に住む必要がどれほどあるのだろう。家は次第に個室の集合体になる。食事をするとこだけ集まるのだが、それさえ、冷凍食品の盛んな時代には一人で処理できる。まさに会いたいときだけ会えばいいのだ。

僕はそんな設計をしてみた。実はもう30年も前にも「個室群都市」と称して「ジャパンインテリア」で発表したのだが、また、設計してみた。
個室に全ての家の機能が入っていて、家族は時々それぞれの個室を訪問すればいいのだ。今日はお母さんの家で呑もう・・・などとなる。

リビングルームは過去のものになるだろう。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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