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最小の椅子 |ジョンという名の椅子(内田繁のCHAIR展)

内田繁というデザイナーがいた。桑沢デザイン研究所の出身でその後、デザインをしながらこの大学の学長をしてもいたと思う。インテリアデザイナーというべき立場にいたのだが幅広い仕事をしていた。建築だって設計している。
インテリアデザインという領域は興味深い領域である。そして、優れたデザイナーを生んでいる。高度成長期にかけて商業施設が爆発的に増え、美しいインテリアデザイン雑誌を飾っていた。倉俣史朗と内田繁の二人の活躍が日本のデザイン界を動かしていた。

そんな彼が「CHAIR」というイベントを企画したと誘いがあった。家具会社をはじめいろいろな企業をスポンサーに、会場を準備しメディアを巻き込んで日本のデザイン界に椅子への意識を刺激する展覧会を企画しようというものだった。
そもそも、インテリアデザインとは建築デザインに含まれるほどに建築に接近している。その上、家具や道具や照明設計など身体に近い立場でプロダクトや建築を考える職能でもある。また、建築家のようには技術寄りではない。建築家には法律や構造設計や設備設計などの技術との総合という立場があり、その上、都市にも関わるから社会を学ぶ必要もある。その点、インテリアデザインは感性が要求されるからそれだけアートに近い性格を持ってもいる。これがインテリアデザインを面白くしているのだ。

中でも椅子は建築とプロダクトの中間的存在である。ここをしっかり抑えようという計画だったのだろう。彼の椅子はどちらかというとアート作品的なのだが、デザイン界のリーダー的役割を果たしていた。彼の独特な人間性もこれに貢献している。

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そのチェアー展のためにデザインしたのがこの椅子とテーブルである。当時、僕はまだ沢山の椅子をデザインはしていない。スチールとお得意のゴムで小さな椅子とテーブルをつくっている。
当時、こんな考えをもっていた。家具はどうしても大きいから存在感がありすぎる。お尻に付けていてもいいほど小さい椅子は出来ないだろうか。椅子というより、雑貨のイメージを探したい。できる限り小さい椅子。そこから人体を調べると人が椅子に体重をかける坐骨の左右の広がりは20センチのあれば収まることに気がついた。
どんなに肥っている女性のお尻でも坐骨は痩せた女性と同じで18センチ程度だ。直径20センチの椅子を設計しようと考えたのだ。
こんな小さな椅子になった。太った女性でもただただ肉が周りに垂れるだけで問題なく座ることができる。そして、それに合わせてテーブルも設計している。

初年度は彼が中心になり開催されたのだが、二年目には僕が中心になってまとめることになった。
今、彼はもういない。彼の人生の軌跡を僕がこうしてたどっている。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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