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一本のパイプから | ナプキンリング ACCENT

ナプキンリングである。ヨーロッパやアメリカでは普通だったのだが日本では余りその習慣がない。でも脇田愛二郎がこれを好んでプレゼントに使っていた。アメリカに行くときには必ずこれを土産に買っていったものである。
残念なことに2006年亡くなっている。版画家でもあり彫刻家でもあるアーティストだった。父親は洋画家の脇田和である。

彼がこれに惚れ込んでくれたのはおそらく単純さとちょっとした知性だったのかな・・・と思う。この製品は既製品のパイプでできている。
パイプを回しながら斜めに、同じ角度で切断するとできる多様な形のナプキンリングである。だから集めれば一本のアルミニュームのパイプになる。ここにユーモアとシンプルさという自然な姿勢と知性を感じたのだろう。

デザインは一種の「立体的な詩」である。つぶやき、うめき、饒舌でなく、頬をなぜる風のように何気ないのがいい。
このことはプロダクトだけではない、建築だって同じである。建築は人が移動して体験する環境的な要素がある。自然のど真ん中にあって、太陽を浴び、雨や雪に晒され、日々の自然の変化とともに人間の生活を覆っている。体験型の立体的な詩である。移動したりという時間が関係するから詩でもあるのだが物語性がある。
自分の設計した建築を嵐の中で見たいとか植物に埋もれた状態を見たいと思うのは自然と遊びながら存在し続ける建築の宿命的な詩情である。建築が終わって生活が始まってからは我が子を取られた感覚を持ちながら新しい連れ合いとどんな日々を過ごしているか覗き込みたくなったりする。

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近頃のように、理論に集中していると詩だけではなく、霊魂のような重い概念がまとわりついてくる。江戸時代には僕のいう原初思想が支配的だったから、ヨーロッパからその後入ってきた近代思想とそれに影響を与えたキリスト教思想は見えない。「自然」という概念は英語のNATUREを明治になって翻訳した言葉であり、それまでは自然を「霊魂」や「魂」として受け止めていた。自然や社会などの全体概念はそれまではなかったのだ。

原初思想では「物は渾沌から抽出された」と考えている。「世界から顕著な意味の塊が分節した」と言ってもいい。だから畏怖に満ち、祈りたくなるものとしてあらゆる存在が受け止められている。だからデザインとは「魂」を未知の空間から掬い出す仕事だと言ってもいい。デザインは「創造」ではなく未知からの「発見」なのだ。

どこかにまだ見つかっていない美しいものがある。それを素材や形や線や光で発見したい。それがデザインなのだからデザインは「詩」であるのだし、デザインは「霊魂」でもある。素材に直接手を触れて創作する職人や作家たちはそれをもっと切実に感じているだろう。能登の漆作家の赤木明登さんは「長い歴史の中に生きていた一本の線」を探していると語っていた。「原初思想」ではそんな物の深層を考えている。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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