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裏が色づくクロック |ドイツ人が発想した日本的な美意識

ネクストマルニというプロジェクトをプロデュースしたことがある。僕は建築家なのだがプロダクトデザインやちょっとしたものならグラフィックデザインまでやってしまう。それどころか、デザインしたものを販売する仕組みを作って、現実に販売企業を起こしたりもする。古い考えのデザイナーはそれに批判的だったりするのだが、それじゃあイッセイミヤケデザインはどうなんだと反論している。元ソニーの総合デザインセンターのセンター長だった渡辺英夫さんと物学研究会を始めてもう25年になるし、日本デザインコミッティや文化デザイン会議でそれぞれ、もう20年を超える活動もしている。これはある種のデザイン運動の組織だ。ギャラリー間の運営委員だったし、裏千家の家元の弟である伊住政和さんとやっていた茶美会の活動だって、文化活動である。スタジオではデザインをしながら教育をしていたと思うし、デザインや美についての著作や講演、大学での教授など、人生全部を美のために投入しているようなものである。

この20年は中国での活動が多い。スタジオを作るとき、十人を超えない組織であることと全てを建築と考えてプロダクトやインテリア、都市もデザインすることを決めているから、ずっと僕がスケッチしてスタッフはアシスタントの関係だった。そのために経営者としての建築家ではなかったし、今日までデザインの現場で仕事し続けることもできた。高齢になってもデザインができる喜びを思うと僕は間違っていなかったな、と思っている。

そんな日々に、海外から時々、突然、若者がやってくる。ベンジャミン・ワーナーは2メートル近い長身で明るい男だった。今は上海にアトリエを持っているという。この壁掛け時計のデザインを担当したのはドイツ人のクリストフ・ベーリングである。このプロジェクトにはクライアントはいない。アイディアが出たらそれを何らかの方法で商品化する。大体の場合、僕がスケッチしてスタッフが展開するのだが、この時計はクリストフのアイディアである。

時計の裏に蛍光塗料を塗ると壁が輝く。これだけの提案なのだが僕はドキッとした。この間接的な表現はまさに日本の文化の延長なのだ。ドイツ人が日本的な美意識を発見したのである。商品にして、僕の会社で販売することにした。本体は厚手の紙でできている。

クリストフ・ベーリングはその後、イギリスのロス・ラブグローブのところで働き、その後、スイスの時計会社、ロレックスのデザインのリーダーをしている。
天津設計週に招いたり、東京に仕事できた時など、たまに会うのだが弟子たちが世界で活躍するのは嬉しい。息子たちのような感覚である。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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