【クジラ短編集5】街クジラが泳ぐ空 #創作大賞2024
街クジラをみたら、夢が叶うんだって。
友理がキラキラした目で言った。
街クジラって何?
麻里子は、不思議そうに尋ねた。
あのね、
普通に空にいるんだけどね、見える人は少ないんだって。
クジラ雲のこと?
麻里子が言うと、
違うの、ホントのクジラみたいに空を泳いでいるの。
いとこのカナちゃんが見たのよ。
カナちゃん、その後絵のコンクールで優勝して、それから大好きな絵の道に進んだんだ。
にわかには信じられない友理の話に、麻里子は笑って、
うっそだぁ
と言った。
しかし友理は本気だ。
麻里子は、クジラが大好きで、いつか海で本物を見てみたいと思っていた。
信じているわけではないけれど、街クジラが本当にいるというなら、見てみたいな。
そんなふうに思う自分がおかしくて麻里子は思わずフフッと笑った。
ある時、麻里子は空に浮かぶクジラの形の飛行船を見つけた。
これのことなのかしら?
友理の話を信じるわけじゃないけど、思わず
「今度の最後のバレーボールの大会で優勝できますように」と祈った。
しかし大会では、やはり今回もS高には敵わず準優勝で終わった。
やっぱり夢は叶わなかった。
まあね、そんなわけないもんね。
それに麻里子には、本当はもっと大きな夢があった。
お話を書くのが大好きな麻里子は、いつか自分の書いたお話を本にしたいと思っていた。
その為には、もっともっとお話を書いていかなくちゃ…
そんなことを思いながら雨上がりの空を見ていると、大きな虹が出ていた。
うわー綺麗な虹‼️
思わず見惚れていると、なんとその虹の橋の下をゆっくりとクジラが泳いでいる。
え?
麻里子は思わず目を擦った。
少しだけ半透明だけど、黒っぽくて大きな体がはっきり見えた。
これが街クジラなのかしら…
あまりに驚いて、願い事をすることを忘れてしまったけれど、数分で消えてしまった街クジラの姿はしっかりと心に焼き付けた。
翌日みんなに聞くと、その日虹を見た人はたくさんいたけれど、街クジラを見た人は誰もいなかった。
それどころか、何言ってるの?
と笑われた。
友理だけが、
いいなあ、いいなあ、私も見たかった、と言っていた。
麻里子は、いつまでも、美しい街クジラの姿が頭から離れなかった。
いつか、あんなふうに美しいクジラのお話が書きたいな…
麻里子はその後、空を泳ぐクジラのお話を書いた。
街クジラとは、実は街に住む人々の夢や願いが集まって生まれたものなのです。
そして、そのクジラを見た人の夢が叶うのではなく、夢を叶えたいという強い気持ちがある人、そして空に飛んだ自分の夢に強い気持ちを誓った時、見えるクジラだったのです。
お家の屋根の上
高層マンションの周り
ビルの谷間
緑の公園の上
いつだって街クジラは、
ゆっくりと泳いでいる。
みんなが夢を持ち続ける限り
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