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鳩になりたかったカラス

一羽のカラスが、道に落ちていた光るものを見つけて、これはなんだろう?
と、つついたり転がしたりしていた。
すると、どこからか
カラスだ!
カラスだ!
と子供たちが石を投げてきました。

カラスは驚いて飛び上がりました。
すると、子供たちは
仕返しされるぞーと叫んで、ちりぢりになって逃げました。

カラスは、どうして私は、こんなに人間に嫌われるんだろう。
小さな動物を捕らえたり、落ちているものを食べているだけなのに…

それに比べて、鳩はいいな。

公園では、子供たちがはしゃぎながら、鳩に餌をやっています。
お年寄りたちが、その光景を目を細めて眺めていました。

しかし、カラスが近くに行くと、みんな顔をしかめ、
あっちへ行け、というそぶりをするのでした。

この黒い姿が悪いのだろうか…

カラスは、村はずれの小さな神社に行きました。

それは、小槌神社という神社で、ここのお守りは福をもたらす言われ、小さいけれど、昔から地域の人に大切にされている神社でした。

そこには、手のひらほどの小さな神様が住んでいました。
身体は丸々していて、赤ら顔。いつもニコニコしている神様でした。

カラスは、神様に
鳩になりたい。私を鳩にしてください。
とお願いしました。

神様は、これから100日間、毎日かかさず、野山にある赤い小さなウリをとってきたら、鳩にしてあげよう。
と言いました。

カラスは、その日から、雨の日も寒い北風がビュンビュン吹く日も、草むらや野山を飛び回り、その赤い小さいウリを探して、神様のところに持ってきました。

神様がそのウリを開くと、中には小さな打ち出の小槌がたくさん入っていました。
神様はその小槌を綺麗に洗って乾かすと、ふっと息を吹きかけました。

すると茶色かった打ち出の小づちは、金色になりました。
神様は、それをこの神社で売っているお守りの中に一つずつ入れていきました。

カラスもその作業を手伝いました。

人々は、カラスがいつもくわえて飛んでいる赤い小さなウリをみて、
そのウリのことを、カラスウリと言うようになりました。

こうして100日経ち、季節は寒い冬になっていました。
神様は、よく頑張った。
お前を鳩にしてあげよう。

神様がカラスにふっと息を吹きかけると、カラスの羽はみるみるうちに、白くなりました。

鳩になったカラスは、公園に行きました。
しかし、木枯らしがふく寒い公園には、誰もいませんでした。
たくさんいた鳩も、一羽もいません。

西の空が赤く染まり始めたころ、カラスの群れが、
日が沈もうとしている山の方に飛んでいきました。

鳩になったカラスは、その群れに向かって、
おーい、と叫びました。
しかし、その口から出たのは、
クックルー、クックルーという鳴き声でした。

公園の池で水を飲もうとやってきて、カラスは水に写る鳩になった自分の姿を見ました。
そこには、あのツヤツヤした真っ黒い羽はありません。

カラスは突然悲しくなりました。
カラスは、自分の黒い姿が嫌いだったわけではなかったのです。
むしろ、つやつやとした真っ黒い羽根は、美しいと思っていました。

無理に人間に好かれなくたって、よかったのではないか?
自分は自分の美しさを信じていればよかったじゃないか!

鳩になったカラスは、またあの赤いウリを探して野山を飛び回りましたが、もうどこにも赤いウリは見つかりません。

小槌神社の屋根の下で、北風を避けて一人
クックルー、クックルー
と泣いていました。

そこに小さな神様がやってきました。

ようやく鳩になれたのに、悲しそうじゃないか。

鳩になったカラスは言いました。

私が間違っていました。
やはり私は、カラスでいた方が幸せでした。
と涙を流しました。

神様は言いました。
誰でも人がうらやましく見えるものだよ。
でも、本当は自分にだって、いいところ、幸せなところもたくさんあるのだからね。
さあ、そこの泉で、身体を洗ってごらん。

鳩になったカラスは、神社の裏手に湧き出ている小さな泉の水を体にかけました。
泉の水は、氷のように冷たくて、思わず体をブルブルと振るわせました。
すると、体中からペンキが剥げるように白い膜が落ちて、その中から真っ黒い羽根が出てきました。

真っ黒い姿に戻ったカラスは、思い切り、カアー カアーと叫ぶと、
嬉しそうに、黒い影のようになった西の森に向かって飛んでいきました。



※このお話に中にある、カラスウリの名前の由来は、創作です。
カラスウリの名は、平安時代からあるそうで、
実際には、苦いので人間は食べないが、カラスが食べるからとか、
いや、カラスも食べない、カラスさえも食べないウリだから、などと言われているそうです。(所説あり)

枯草の中に、赤く実っているカラスウリ、秋を感じますね。
子供の頃、その実から種を取り出し、綺麗に洗って干して、お財布に入れていました。


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