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異界と繋がる寮

真璃子は、大学一年の時、学校の敷地内にある女子寮に入っていました。

その寮は、日当たりが悪いわけではないのに、なんだか暗くじめっとした感じの、コンクリートで作られた3階建ての建物でした。

その寮には、いろんな噂がありましたが、その一つに、そこは昔、野戦病院で、夜廊下に出ると、廊下を戦時中の看護婦さんの格好した人が歩いている、というものがありました。

とはいえ当初全く霊感がなかった真璃子は、直接知り合いが見たわけでもない噂は信じていませんでした。

当時同じ寮に、占い師を目指しているというたまきという子がいて、寮のみんなは
かわるがわる環の所にやってきて占いをしてもらっていました。
真璃子もその中の一人でしかなかったのだけれど、なぜか急に仲良くなり、夜な夜な消灯後に3階の自分の部屋から2階の環の部屋にこっそり遊びに行き、夜中の2時頃までお喋りして過ごすようになりました。

環は霊感が強く、いろんなものが見えるということで、そんな不思議体験を聞いたり、よく当たると評判だった環の占いの話を聞いたりして楽しく過ごしていました。

しかし環といるうちに、なぜか真璃子も次第に敏感になってきて、色々なことを感じるようになってきたり、自分でした占いが当たるようになってきました。

そして、夜三階の自分の部屋に戻る時、屋上へと続く真っ暗な階段の奥から、とか廊下の外から見られてる気がしたりして、平気だった夜の寮に怖さを感じるようになってきていました。

その頃環に
真璃子って、強いね。
真璃子が部屋に来ていると、悪い霊が部屋の中に入って来れないみたい。
ドアの窓から、恨めしそうにこっちをみてるよなどと言われていました。
真璃子自身も、霊的な怖い体験はしたことがなかったので、環が言うならそうなのだろう、と思っていました。

そんなある夜のことでした。

その日も2人で話していると、環が
今日はちょっと悪いのが来ているみたい
と言い出しました。
そして真璃子に、
目を瞑って動かないで、いないふりをしよう
と言い出しました。

静まり返った部屋の中で、ドキドキしながらじっとしていると、突然
カチャッ
ドアが開く音がしました。

思わず目を開けた真璃子は、そこに環がいないことに気づきました。
そして見ると、ドアが10センチほど開いています。

真璃子は慌てて廊下に出ると、通常は50mもない寮の廊下なのに、そこはどこまでも廊下が続いていました。
そしてドラマなどで見るような戦時中の看護婦さんの格好を着た人たちが歩き回り、怪我をした兵隊さんが、あちこちでしゃがみ込んでいたり、廊下の隅をゆっくり歩いていたのです。

見ると環が、担架に乗せられて、看護婦さんに運ばれていく所でした。

真璃子は慌てて追いかけて、環の手を掴みました。
気を失っていた環は、パッと目を覚まして、飛び起きました。
真璃子たちは手を繋いで、必死逃げました。
しかし両側にずっと病室が並んでいるだけで、どこに逃げたらいいのかわからないのです。

看護婦さんが、恐ろしい形相で二人を追いかけてきて、環の手や足を捕まえようとしますが、振り切って走りました。

ふと二十三号という病室の番号が目に入りました。
寮の環の部屋の番号は23号室。

ここだ!
真璃子と環は、部屋に飛び込みました。

ドアをバタンと閉めて、辺りを見回すと、
それは環の元の部屋でした。

しかし、その窓の外からは、たくさんの目が覗いていました。
そしてそれだけでなく、環の手足に、手で掴まれたような赤紫色の跡がついていました。

真璃子は、どっくんどっくんと鳴っている心臓の音を聞きながら、環に
もう大丈夫みたい、
と言われるまで環の手を掴んだままでした。

その夜真璃子はそのまま環の部屋で寝てしまって朝を迎えました。

真璃子は朝起きた時、昨夜の出来事は夢だったのかと思いました。
でも環が
昨夜は助けてくれてありがとうね、
と言ったので、やはり現実だったのでしょう。

そんなことがあった頃から、真璃子は環の部屋に行かなくなりました。
怖かったから行かないとか、環と会うのが嫌になったとかではないのです。

なんとなく行かなくなり、
会った時は話をしたりするのですが、
自然と離れていきました。

真璃子は一年でその寮を出ました。
環とは、それ以降会っていません。

真璃子が環と急に親しくなって、一緒にいたのはわずか2〜3ヶ月。
一体なぜあの時、あの短い間だけ急に親しくなったのか、真璃子は不思議に思っていました。

でも、環自身、今まで怖いものをたくさんみたり、怖い思いをしてきたけれど、あんな経験をしたことはなかったと言っていたので、環を助けるために、真璃子はあの時あの場にいたのではないかと思いました。

私は長生きできないの…

そんなことを言っていた環ですが、その後彼女がどこで何をしているのか、
生きているのか、
環の消息を知っている人は、誰もいません。


ここまで1974文字

これは、#2000字のホラー
に出そうと思って書いたものですが、
内容をよくみたら、
新しいタイプのホラーを募集
とのことでしたので、企画にはそぐわないと思い、出すのをやめた分です。

このお話は、私の経験(思い出)を元に制作したものです。
実際に、全て体験したものではありません。

しかし、この寮は
今も存在します。

開かずの扉があったり、
入ると気分が悪くなったり、突然倒れてしまう人がいる…という部屋がありました。

辺りには、また別ですが
一年おきに、学生が死んでいる寮があったり、

ある公園で酔って寝てしまった人が、数日間原因不明の高熱を出し、その後2年間、同じ頃に原因不明の熱を出してしまったり…

以前記事にした、目の前で、狐か何かに取り憑かれてしまった友達を助けた事とか…

実は結構色々あります。

もしまた、記事にする機会があったら…
書くかもしれません。

秋の夜長、
たまにはホラー小説、いかがでしょう👻

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