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【創作大賞2024】ボクんちの笑うお面 第4話

4 里芋は嫌い

「騙されたと思って食べてみて!」
又始まった。
何度この手で、ボクは、嫌いな里芋を食べさせられたことか…
「今日は、みたらし団子みたいにしてみたの。
絶対これならいけると思うのよ。
ね、食べてみて!」

お母さんは、自信たっぷりな顔でボクに言った。
目の前のお皿には、一見したらみたらし団子みたいなものが、乗っている。
しかしボクは騙されない。
これは里芋だ。

とはいえ、お母さんがボクのために、いろいろ工夫して、なんとか里芋を食べれるように考えてくれているのはわかるし、
「ね、お願い。 これだけでいいから。」
って、1〜2個お皿に乗せられると、
騙されているとわかっていても、しぶしぶ食べてみようかという気になる。

お母さんは今まで、里芋を使って色々な料理を作ってきた。
豚汁に小さく切って入れたり、コロッケにしたり、油で揚げたり、グラタンにしたり。
カレーに入れた時は最悪だった。
大好きなカレーが、里芋の味でいっぱいになってしまって、一気に食欲がなくなった。
なぜそうまでして、里芋を食べさせようとするのか疑問だったけど、どうやらそれはお母さんの挑戦らしい。

ボクは今日も、結局騙されて、思い切って、一個をパクっと口の中に入れた。
口の中に、里芋のネチャネチャした感覚が広がる。
「うぇ〜」
ボクはそう言って、口の中の里芋を一気に喉に押し込み、水を飲んだ。
「やっぱりダメだった?」
お母さんは、ちょっと悲しそうに言うけど、
ムリ! やっぱり里芋じゃん

すると、ボクんちの、緑色のおじいさんのような顔のお面が、
またボクにしか聞こえない声で、
ケッケッケッケッ
と笑った。

夕食後、ボクはお面に向かって、
「なんであんなまずいもの、食べさせるのかな。」
と呟いた。
するとお面が、カタカタカタと揺れた。
ボクは、又お面の世界に行ける気がしてお面に触れた。
すると今日もお面は、黒い板からパカっと外れた。
ボクがお面を顔に当てると、お面は又ボクの顔にピタッと張り付いた。

再び明るい外の景色かと思ったけど、目を開けた先も、夕飯時だった。
だけど、畳の部屋に置かれたその木の台の上には、人数分のお椀が一個づつ置いてあるだけだった。

夕飯が済んだばかりだというのに、ここにきた途端、ボクはすごくお腹が空いていた。
お面を被った世界のボクは、「こうちゃん」というらしいのだが、
その「こうちゃん」は、きっと今日はおやつを食べていないんだろうと、ボクは思った。

目の前に出されているのは、ちょっと茶色っぽいお粥だけだった。
え?これだけ?
愕然とした時、おそらくこうちゃんのお母さんと思われる人が、何やら鍋を持ってきた。
なんだろう?
みると、鍋の中に布巾が敷かれ、その上には、丸くて小さい、コロコロした皮付きの里芋が、ホワホワと湯気を上げていた。

「お隣さんが分けてくださったのよ。
ありがたいわね。」
「うわーすごい! ご馳走ねえ。」
気付くと横に、小さい女の子がいて、大喜びで、目を輝かせていた。

え?ごちそう?
里芋がごちそうなの?

食卓の上には、おかゆとこの里芋と、たくあんが少しあるだけだった。
その時僕のおなかがグーッと鳴った。
お腹がペコペコだ。
でも、里芋はいやだなあ。他に、食べるものないのかなあ…
そう思っていたのに、ボクはその里芋に手を出していた。
嫌だよ~ 食べたくないよう~
そんな気持ちを無視して、ボクは、アッチ!と言いながら、手の指先で里芋を持って、
ふーふーと息を吹きかけた。
そして、1箇所の皮をめくると、ぷにっと里芋を押す。
すると、まるでこんにゃくゼリーをカップから出すみたいに、真っ白い里芋が顔を出た。
それに塩をふりかけて、ぱくっと口に入れる。
え? おいしい‼︎
里芋は、ほくほくして、塩味がまた、絶妙だった。
ボクは、夢中になって、里芋をほうばった。
その時、ぐるんっと世界が変わる感覚。

思わず目をつぶり、それから静かに目を開けると、
それは、先ほどの風景でもなければ、いつもの自分の家ではなく、また違う光景だった。
それなのに、やっぱり夕飯時だった。

女の子が、夕飯を前にうつむいている。
どこかでみたことあるような子だ。
どうやら女の子は、目の前に出された食べ物を食べたくないらしい。

その時、お母さんらしき人が、
「ねえ、みどりちゃん、だまされたと思って食べてみて。」
と言った。
みどりちゃん?
それはボクのお母さんの名前だった。
お母さん?
よく見ると、確かにお母さんに似ている。
そして、そのみどりちゃんのお母さんは、かなり若いけど確かにおばあちゃんだ。
お母さんも、だまされたと思って食べてみて、って言われてたんだなあ、
と思うと面白くなった。

一体何を食べたくなかったのかな?
見ていると、
小さいみどりちゃんが、
「無理だよ。だってかぼちゃの味するもん。」
と言った。
お母さん、カボチャが嫌いだったのか・・・
ボクは、かぼちゃは食べられるぞ!
ボクはちょっと得意な気持ちになった。

その時、再び世界がグルんと回って、ボクは、自分の世界に戻っていた。
ボクはお面を黒い板の上に戻すと、台所で洗い物をしているお母さんのところに行き
「ねえ、お母さん、
小さいころかぼちゃ、嫌いだったの?」
と言った。するとお母さんは、
「あら?誰に聞いたの?
うん、あんまり好きじゃなかったな。
でも、おばあちゃんが作ってくれた、かぼちゃチップス食べたら、おいしくって、それから食べられるようになったのよ。」
と言った。

それまでに、きっとおばあちゃんも、かぼちゃでいろんな料理を作ったんだろうなあ。
「誠、里芋チップスにしてみる?できるのかな?」
そういったお母さんに、ボクは
「小さい里芋、皮ついたまま蒸したのに、塩つけて食べたいな。」
と言った。
するとお母さんは、驚いた顔をして
「前に、それ出した時は、里芋いやだって言って、手も付けなかったじゃないの!」
と言った、
「そうだったの?全然覚えていなかった。
だけど、今度は食べられそうな気がするんだ。」
(だって、こうちゃんとして食べた里芋は、本当においしかったから・・・)


数日後、お母さんは、丸い小さい里芋を皮付きのまま蒸してくれた。
お母さんが、
「これはね、こうやって食べるのよ。」
と説明しようとした時には、ボクはもうツルっと里芋の皮をむいていた。
「まあ!」
驚くお母さんを横目に、ボクは塩を振りかけて、パクっと里芋を口の中に入れた。
里芋は、あの時と同じように、ホカホカ、ほくほくで、とってもおいしかった。

そんな僕を見て、お面は
ケッケッケッケッ
ボクにしか聞こえない声で笑った。
ボクはお面に向かって、得意げにピースした。


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