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【クジラ短編集3】夢を食べるクジラ

あるところに夢を食べるクジラがいた。
そのクジラは、空を漂い、人々の夢を吸い上げて食べてしまうのだ。

クジラは人が多いこの街の上空に度々現れた。
そこには、たくさんの希望溢れた夢があったからだ。

しかしそのクジラが上空を通り過ぎると、人々は途端にやる気をなくして、自暴自棄の言葉を吐いたり、不機嫌になったりした。

街の人々が、不平不満ばかり言ったり、人を批判したり、自分の事しか考えなくなると、町は争いが多くなり、人々から笑顔が消えていった。

ところが、ヒカルだけは違っていた。
ヒカルは、いつも明るく元気だった。
何度クジラに夢を食べられても食べられても、負けずに次々と新しい夢を持ち続けた。

ケーキ屋さんになりたい
おもちゃ屋さんになりたい
野球選手になりたい
お笑い芸人になりたい
宇宙飛行士になりたい
探検家になりたい
お医者さんになりたい
探偵になりたい
考古学者になりたい
カメラマンになりたい

彼は本を読むのが大好きだったので、夢を失っても何か本を読むたびに、どんどん新しい夢が生まれてくるようだった。
そしてヒカルが夢の話を始めると、ヒカルの周りの人々も元気が出てきて新しい夢を持ち始めるのでした。

クジラとヒカルは、まるで競争するように、夢を食べられては、次の夢をもち、また食べられても、新しい夢を持ち、人々にも新たな夢を与える事を繰り返した。

夢を食べるクジラは、夢を食べてどんどん大きくなった。
食べ過ぎたお腹は、今にも破裂しそうだった。

破裂寸前のクジラは、どこかホッとした顔をしていた。
クジラはヒカルをみて、静かに微笑むと、
パーン
と大きな音を立てて破裂した。

そのとき、空から虹色の雨が降り注いだ。
その雨を浴びた人々は、失った多くの夢を取り戻した。

人々は、空に向かって、自分の夢を語りだした。
どんな夢を持ち、語っても、もう誰にも何にも奪われることはない喜びを、全身で感じた。

それから彼らの夢は、失われることなく空に上って行った。
よく見ると、それらはキラキラ光る小さなクジラのようだった。
小さなクジラは、どんどん集まって大きなクジラになった。

人々は、その大きなクジラを見て一瞬たじろいだ。
しかし、すぐに気が付いた。
あれは夢を食べるクジラではない。
夢を叶えるクジラに違いない。
なぜなら、そのクジラを見ると、自分の夢が失われるどころか、ますます具体的にイメージできたからだ。

その後、クジラはあちこちの、活気あふれる街の上で、時折見かけられるようになった。
人々はそれを、街クジラと呼んだ。

夢を食べるクジラが消滅し、街クジラが出現したのち、ヒカルは姿を消した。
考えてみたら、ヒカルはある日突然この街に現れた子供だった。
ヒカルは一体何者だったのだろう。

誰かがヒカルが街クジラに乗っているのを見たと言った。
ヒカルは、きっと今でも、街クジラに乗って
多くの人に夢を与え続け、夢を叶える手助けをしているのだろう。


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