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春の少女 4

桜が満開の中、始業式が行われ、
ショウタもハルカも、2年生になった。

ショウタは、そこにハルカがいることに、ホッとした。
なんだか、ハルカがどこかに行ってしまいそうな気がしていたからだ。

ショウタ達の学校は、2年ごとのクラス替えなので、今年はクラス替えがなく、又ハルカと同じクラスだった。

ハルカちゃん、春休み何していたの?

おうちで本を読んだり、絵を描いたりしてたの。みてみて!
ハルカは、ノートに書いた絵を見せてくれた。
それはお花の絵ばかりだった。

ハルカちゃん、お花が好きなんだね

うん、だいすき

ショウタは、自分のことじゃないのはわかってるのに、
だいすき
と言う言葉に、どきどきした。

僕のうち、ばあちゃんがお花好きだから、
いつもいっぱいお花が咲いているんだ。
ハルカちゃんに見せたいなあ…

そういえば、僕のうちの住所
夢見ヶ丘87-92
なんだけど、
87の92で、「はなのくに」
なんだよ。
お花いっぱいだから、
ホントに花の国って感じだよ

ハルカは、
すごい!
夢を見る岡で、花の国なんて、ステキね!
行ってみたいな
と微笑んだ。

ショウタは毎日学校に行くのが楽しくてたまらなかった。

ハルカは、
ショウタが、犬が怖くて、学校帰りに野良犬から逃げ回った話や、
近くの川に落ちて死にそうになった話や、
おばあちゃんが隠しているお菓子をこっそり食べて怒られた話など、いろんな話をした。
ハルカは、どんな話をしても、楽しそうに笑って聞いてくれた。

先生が、最近ハルカちゃん明るくなったのは、ショウタ君のおかげかもね
と言ってくれたのが、嬉しかった。

そんなある日、
ショウタが一人で家に帰っている途中、
見知らぬおじさんが、声をかけてきた。

ニコニコして優しそうなおじさんだった。

この学校に、ハルカちゃんいるよね、
少し前に転校していた…

うん、いるよ。

まだ学校にいるかな?

わからない、もう帰ったんじゃないかな?

おうちどこか知ってる?

知らない。

おじさんは、ありがとうね、と言ってどこかに行ってしまった。

ショウタは、気にも止めずに家に帰った。
しかし夜になって、
知らないおじさんに、ハルカちゃんの話してよかったのかな?
と急に心配になった。

あのおじさんは、誰だったんだろう…
でも、悪い人には見えなかったし

翌日学校に行くと、ハルカは休みだった。

ショウタはドキッとした。

先生は、ハルカちゃんは、体調を崩してお休みです、と言ったけど、昨日のおじさんとは関係ないよね?

ハルカが休んだまま、一週間経った時、
先生が、
ハルカさんは転校しました
と言った。

え?

ショウタは愕然とした。
嘘でしょう?
お別れの言葉も言わずに、転校しちゃうなんて…

春と共にやってきて、
春の終わりと共に、黙っていなくなってしまったハルカ。
まるで春の妖精のようだとショウタは思った。



しかし、そのあと妙な噂が広まった。

ハルカのお父さんが、学校にやってきて、
ハルカとお母さんの居場所を教えろと大騒ぎをした。
警察が来て、お父さんは連れて行かれたけど、
ハルカとお母さんは、その恐ろしい父親に、この町にいることが知れてしまったので、出ていったと

僕は、恐ろしくなってガタガタ震え出した。

僕が、知らないおじさんに、ハルカちゃんがこの学校にいるって言ってしまったからだ。

僕が、そんな子いないよ、と言っていたら、ハルカちゃんは、この町から出て行かなくてもよかったんじゃないのか?

僕が…
僕がハルカちゃんを、
せっかく仲良くなれたハルカちゃんを、
この町に居られなくしてしまったんだ。
辛い目に合わせてしまったんだ。

ショウタは、教室を飛び出した。
ショウタは公園に行った。

ハルカちゃん、ごめん
ハルカちゃん、ごめん

ショウタは泣き続けた。

悔やんでも悔やみきれない。

知らないおじさんと喋っちゃいけなかったのに
優しそうだと思った、あのおじさんが、
本当は恐ろしい人だったのか?
それともお父さんから頼まれて探していた人なのかはわからない。

だけど、僕は…
僕は…

暗くなっても帰らなかった僕を、担任の先生が探しに来た。

僕は、

ごめんなさい
ごめんなさい

知らないおじさんに、
ハルカちゃんが、この学校にいるって言っちゃったんだ。
僕が、僕が…

泣き続ける僕に、先生は言った。

ショウタ君のせいじゃないのよ。
そろそろ転校しないといけないかもしれないって、先生は聞いていたからね。
それがちょっと急になってしまったけど、
ショウタ君のせいじゃないのよ

それでもショウタは、泣き続けた。

突然のお別れになってしまったのは、
やっぱり僕のせいだ
さよならも言えなかった…

もう学校へは行きたくなかった。
行きたくない
と言う僕を、おばあちゃんは無理やり学校に連れて行った

ハルカのいない学校は、冷たいねずみ色の、牢獄のようだった。


おしまい    

このままじゃ終われない。
終わりたくない


だから

つづく

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