騙されknight
佐々木は、ある企業の研究室で、新商品の開発をしていた。
それは、日本人が海外に行った時に、度々騙されたり、カモにされたりするのを防ぐための、見極めライトだった。
親切で近づいてくる人と、騙そうと近づいてくる人は、何が違うのか?
おそらく心の興奮度が違うに違いない。
ということで、相手の心拍数を察知して、見極めることができるはずだ。
こうして出来上がった商品は、
「騙されない」と「騙されることから守ってくれる騎士」を掛け合わせ、
『騙されknight』という商品名がつけられ、爆発的な売れ行きとなった。
それは、持ち物に貼り付けられるボタンのようなもので。相手が高い心拍数で近づいてくると赤、穏やかな心拍数で近づいてくると青で光った。
佐々木は、研究員であると同時に、この会社の社長の息子で、将来の社長となる人物であった。
そのため、彼のお金目当てであったり、社長夫人の座を狙って、さまざまな人間が、近寄ってきた。
そのため彼自身も、「騙されknight」を常時持ち歩いていた。
彼は同じ研究室で働く、奈央美に密かに思いを寄せていた。
そんなある日、佐々木が1人で研究室にいると、奈央美がやってきて、
「あの…よかったら、この後食事に行きませんか?」と言った。
佐々木は天にも昇る気持ちになったが、その時腕時計につけていた、騙されknightが赤く光った。
彼女も俺の金狙いだったのか…
佐々木はがっかりして、言った。
「申し訳ない。このレポート明日までに仕上げなければならないんだ。またいつか」
わかりました。
奈央美は、うなだれて研究室を出て行った。
少しして、奈央美が佐々木に恋している
という噂を聞いた。
研究員仲間の武田に、実は騙されknightが赤くなったんだ…
という話をすると、もしかして告白の緊張で心拍数が上がっていたのでは?
と言われて、佐々木はハッとした。
そうか、心拍数が上がるのは、何も騙そうとした時だけではないんだ。
佐々木は改めて、奈央美が1人の時を見計らって、食事に誘った。
ところが奈央美が、一瞬嬉しそうな顔をしたが、チラッとスマホを見ると、一呼吸して
やめておきます。
と言った。
その時、佐々木は奈央美のスマホについてた騙されknightが赤く光ったのを見た。
ち、違うんだ…騙そうなんて思ってない!
しかし、奈央美はその場を立ち去ってしまった。
そこで佐々木は奈央美に手紙を書いた。
自分は奈央美さんが好きです。
騙されknightは、恋のドキドキも、誤って危険と判断してしまうようなのです。
決して、あなたを騙そうと思ってなどいません。
こうして佐々木は奈央美と付き合うようになった。
そして佐々木は、騙されknightの改良に力を 注いだ。
奈央美と結婚が決まった頃、奈央美と武田がヒソヒソと話をしていた。
武田さん、あなたが「私が佐々木さんを好きだっていう噂を流してくれたおかげで、無事将来の社長夫人の座を手に入れられたわ、ありがとう。
研究、研究で面白みもない人だけど、将来の社長ですからね。
「もしかして告白の緊張で心拍数が上がっていたのでは?」
は、ナイスアシストだったわ。
武田は、
ちゃんと見返り、お願いしますよ、
と言ってニヤッと笑った。
その後佐々木は、ひょんなことからその事実を知った。
とはいえ、奈央美は悪い妻というわけでもなく、今更奈央美と別れる気もない。
ただ、AIを用いて、間違った噂や情報を見極める「間違えknight」を作り出し、これがまた爆売れした。
こうして奈央美は生涯贅沢な生活を送ることができた。