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赤い鼻のトナカイ【シロクマ文芸部】

十二月になると、子供たちはそわそわしだす。冬休みにクリスマス、お正月と楽しい行事が目白押しだからだ。

しかし、そわそわしているのは子供たちだけではなかった。
山のトナカイたちも、今年はやけにそわそわしている。
今年は、サンタさんのお供のトナカイが、この森のトナカイから選ばれるらしいぞ。
そんな噂がどこからともなく流れてきたのだ。

あるトナカイが、岩に鼻を擦り付けて、真っ赤に腫れ上がらさせていた。
仲間のトナカイが言った。
バカだなあ…最近は赤鼻のトナカイなんていないから、鼻先にピエロみたいな赤い丸い鼻をくっつけてくれるから、鼻は赤くなくていいんだぞ。
赤鼻のトナカイは、ヒリヒリする鼻を擦りながら、サンタクロースを待った。

しかしやってきたのは、いかにも偽物の白い髭をつけた壮年の男だった。
男は、赤い鼻のトナカイを見て微笑んで、一緒に来るかい?
と言った。
こうして赤い鼻のトナカイと、他三匹のトナカイが、偽サンタと共に行くことになった。

偽サンタは、赤い鼻のトナカイに、
冷たい風が当たったら痛かろう
と言って、作り物の赤い丸い鼻をくっつけた。
なんだかすりむけた鼻の痛みが、少し和らぐようだった。

トナカイたちは、クビに鈴をつけて、偽サンタが乗った荷車を引いて、村までの道を走った。
荷車にはたくさんのプレゼントが載っていた。
トナカイと偽サンタがやってきたのは、子供達が待つ施設だった。
トナカイたちは、なんだ、ただの馬車馬の代わりか‥と少しがっかりしたけれど、
プレゼントをもらって嬉しそうな子供の様子を見たり、
わあ、トナカイだ!
かっこいいなあ…
などと言われて、少し嬉しかった。

プレゼントを配り終えると、偽サンタとトナカイは元の森に向かって歩き出した。

てっきり、サンタと共に夜空を飛べると思っていたトナカイはがっかりした。
森の入り口あたりにきた時には、もう辺りは暗くなっていた。

もうこれで終わりか…
そう思った時、サンタクロースが
さあ、これから本番さ
と言ってウィンクした。
サンタクロースは、白く銀色に輝く粉を、自分やトナカイや空になった荷車に振りかけた。

みると荷車にはたくさんのプレゼントが山積みになり、トナカイは急に足が軽くなった気がした。
そして驚くことに、偽サンタは見事な白鬚を蓄えた、本物のサンタクロースになっていた。

さぁ、思いっきり走っていいよ。
サンタクロースが言うと、トナカイたちは勢い良く走り出した。
そして気づくと夜空に舞い上がっていた。

サンタクロースを走りながら、地上に金色の粉を振りまいている。
その粉はなんですか?
トナカイが聞くと、サンタクロースは
サンタクロースを寝ないで待っている子供たちが眠くなる粉さ
と言って笑った。

こうしてトナカイとサンタクロースは、たくさんの子供達にプレゼントを配って、明け方になって森に帰ってきた。
疲れただろう。ゆっくりおやすみ。
サンタクロースはそう言って、緑色の粉をトナカイ達に振りかけた。
トナカイたちは急に眠くなり、その場にうずくまって寝てしまった。

眠りかけた時、遠くで
今夜のことは内緒だよ〜
というサンタクロースの声が聞こえた気がした。

クリスマスの朝、トナカイが目覚めると、いつもの森のいつもの風景だった。
周りのトナカイは、何事もなかったかのようにただ草を食べ、一緒に行ったはずのトナカイも、何も言わずにモクモクと草を食べていた。

夢だったのかな?

しかしトナカイの足元に、小さなプレゼントの箱があった。
みると、中には昨夜鼻につけていた、赤い丸い作り物の鼻だった。
しかしよくみると、その中には軟膏が入っていた。
これをすりむけた鼻に塗ると、痛みが和らぎ、
数日で治ってしまった。

軟膏の中には銀色に光る粉が入っていて、使っても翌日には元の量に戻っている不思議な軟膏だった。

トナカイは、森で怪我をした動物達にも塗ってあげて、とても喜ばれた。

鼻を真っ赤にして、みんなに笑われたけど、今はこの薬のおかげで人気者さ。

♯シロクマ文芸部

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