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ナイトバードに連理を Day 5 - A - 7

【前 Day 5 - A - 6】

(907字)

「いや、そういうわけには……」
「理由をお聞かせください」

 ほんの数分前、ようやく認識したモッカの人々を反射的に思い浮かべ、即座に拒絶しようとした早矢を頼が遮った。早矢が振り返ることを躊躇するほど、その声と肩越しの気配には自信が満ちていた。七はその時初めて存在を認識したように頼に目を向け、すぐ早矢に向き直った。再びその視線を真っ向に受け、早矢は二人の勢いに気圧されてただ頷いた。七の表情からは笑みが消えていた。

「すぐそばにいる悪党に凶器を持たせたくないと思うことが、そんなにおかしい?」
「それは分かるが……」
「こちらの疑問は、アマフリであるあなたがどうして取引などなさるのか、という点にあります。茶賣の行動を阻止するだけならば、あなたならいくらでもやりようがあるのでは?」

 頼はまるで交渉事に慣れているかのように落ち着いていた。その強気な振る舞いは確かに頼もしい。しかし今がその頼もしさを発揮するべき時なのか、早矢は七の肩の向こうにある巨大な鎧を見ながら早矢は固唾を飲んだ。七はもはや早矢ではなく頼に話しかけていた。

「私にも人の心はあるの。あの男が今消えて一番困るのは、この国に居座りたいあなたたちモッカの民でしょう?」
「なるほど。ではこれは、取引ではなく一方的な脅迫だ」
「そう思いたければ、ご自由に」

 天幕のほぼ中央にいながら、早矢はこのまま事態から疎外してくれればいいと思った。七の態度は明らかに硬化し、頼の物言いは嘲笑的な響きすら帯び始めたように聞こえた。あらゆる意味で板挟みにある早矢は居た堪れなかった。

「ただし、対価は受け取ってもらうわ。私にとってはあくまでも取引だから」
「拝見致します」

 二人はいつの間にか正面から向かい合い、脇に座る早矢の反応を待とうともしなくなっていた。早矢が顔を見れば頼はちらりと視線を返したが、あとはほんの小さく首を横に振るだけだった。任せておけと言うかのように。いつの間にか、三人の並びは車座のようになっていた。

「いいえ、私が払うのは情報。どう使うかもそちらの自由」
「……お聞きします」

 七は存在を思い出したように早矢に目を向けた。

「茶賣は、あなたとは別にもう一人、夜目を匿っているわ」 【Day  5 - A - 8に続く】



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