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仮眠室の夢

今日はめちゃくちゃに眠くて、全く集中できなかった。

眠くて仕方がないときはほとんど人の来ないサボり場所に行って、少しだけ眠る。眠気に抗いながら無理やりデスクに貼り付いて大して捗らないくせにたらたら仕事するより、一回とりあえず目を瞑って休んじゃった方が絶対作業効率がいい。
なのにそれが許されてない感じなのは本当なんなんだよと思う。きちんと休息を取ることはきちんと働くことの中に含まれていると思うのだ。

私のサボり場所には空調がないので、この季節は暑くて死にそうになる。暑い、だるい、眠いと思いながら床に直に三角座りをして目を瞑るとなんかもう働いたりしなくてもいいかなという気分になる。いや駄目なのは分かっているけれど。

普段使われていない蛍光灯がぱちぱちっと点いてぶーーんという変な音で鳴き続ける。耳に付いてうるさいけど同時になぜかすごく静か。近くに電気室だか水槽室だかがあってその扉からも低く唸るような音が聞こえる。人のざわめきは遠いところでささめくくらいにしか聞こえなくて、子供の頃、夜、布団に入って目を瞑ったままリビングにいる両親のぼやけた話し声をなんとなく聞いていたときに似てる。三角座りしている床は冷たいけど、空気はむわっと湿気を含んで生ぬるく、額が少しだけ汗をかく。ねむい、だるい、あつい。

こういうとき、仮眠室があればいいのにって思う。真っ白な壁と天井、重めのカーテンで仕切られたいくつかの清潔なベッド。ベッドには枕とタオルケットがセットされている。エアコンも効いているし、いつでも冷たいお水が飲めるウォーターサーバーも設置されている。入り口はオートロックになっていて、社員証とかのICカードで開くやつならセキュリティもちゃんとしている。こういうとき私はそこに行って、15分くらい眠るだろう。

脚をシーツの下に滑らせるとひんやりとすべやかで、少しごわごわしたタオルケットを適当にかぶって端っこを握って横になって眠る。素足のふくらはぎにシーツの乾いた感触が気持ちいい。空調はいつもつきっ放しだからちょっと空気が乾燥しているけど、涼しくて心地好い。目を閉じるとたちまち眠気が私をすっぽり包んで何もかも宥めてしまう。仕事の時間に裸足で横になるなんてそわそわと嬉しいし、しかも他の人たちは今この時にもちまちま働いているなんて、気分が良くてつい微笑んでしまう。微笑みながら、私は眠る。

しかしここには仮眠室はないので、私は今日も非常階段のてっぺんで眠る。機械の唸る声と階下から微かに聞こえるざわめきを背景に、薄暗い床に座って目を閉じる。三角座りの膝に額をくっ付けると、さらされた首筋を天窓から降りてくる午後のやる気ない日差しがじっくり焼く。目を開けて階段を降りていく数刻後を思うと軽い絶望がよぎるけれど、今だけは一人。膝を抱きかかえ直して息を潜め、ぶーーんという静かな音の中、私は少しだけ眠る。

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