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ワイパー

ある午後。
買い出しを終えて帰宅しようとしていた。
その日は夏の暑い日で最近天気の急変が続いていたので雨が降って来たら嫌だなと思っていた。
足早に歩いていると案の定いつの間にか空が曇り出してきた。
「ヤバイなあ」と思っていたらポツリポツリと頬に雫が当たった。
ゴロゴロと曇り空から音がする。
その瞬間
ドバッと雨が空から叩きつける様に降ってきた。
傘を持ってなかったので近くにあったバスターミナルに逃げ込んだ。
屋根付きのバスターミナルでは自分と同じ様に雨を避けて雨宿りしている何人かがいた。
濡れた服が肌に張り付いて気分悪くなりながらも早く服が乾かないかなと服の中央を摘みパタパタと扇ぐ。
そして何気なく向かいのビルの大きな窓を何気なく見つめた。
するとそこに何かが蠢いていた。
真ん中を軸にして左右に揺れている。
まるでクルマについているワイパーみたいだった。
よーく見てみる。
それは直立不動に立ち尽くす痩せぎすの男だった。
それが真っ直ぐに微動だにせず左右に揺れている。
「え?」見ているものが信じられない。
周りを見渡してみると周りの人達は誰も気がついてない。
もう一度見てみる。
男が揺れている。
目を凝らして見てみるとガラスと人が擦れ合う時に「キュキュッ、キュキュッ」と音がしてその男は舌を出してガラスを舐めているみたいだった。
小気味良い「キュキュッ」という音。
でもそこでハタっとした。
こんなに距離があるのに音が聞こえるはずない。
見てはいけないモノを俺は見ているんだと思った。そしてそれは俺にしか見えてない。
とてつもない不安感と恐怖心が襲う。
アイツに気がつかれたら‥‥。
男は揺れている。
熱心にガラスを舌で舐めながら揺れている。
目が離せない。
揺れが激しくなる。
音がキュキュキュキュと早くなる。
ワイパーの最強スピードの様に揺れる。
線が扇型に見える。
早く早く揺れる揺れる。

ピカゴロゴロガガーン!

稲光が一瞬世界を目眩ました。
何処かへ落ちたみたいだ。
雨が強くなる。
一瞬目を瞑ってしまい男を見失う。
目を開けてすぐ向かいの窓ガラスを見る。
男は仰向けになりながら窓枠にぶら下がりこちらを見ていた。
ニタリと笑っていた。
「うあああ」大きな声を出してバスターミナルから走り出していた。

気がつくと雨も止み自分の家の玄関の前にいた。
空も嘘の様に晴れ渡っていた。
アレは一体なんだったんだろうか?
今でも訳がわからない雨の日に見たモノのお話しでした。

たまには怪談。
ええやんええやん。

続く。

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