『ハウルの動く城』を男性性と女性性で読み解く・4
さて、今日は「ソフィーとハウルのすれ違いの理由」や「モテ男恋愛下手説(笑)」について書いていきます。シーンは、ソフィーの夢〜庭での会話の部分になります。
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ソフィーとハウルは、お互いに助け合って危機を乗り越えます。サリマン先生の所から逃げ出した犬のヒン、魔法を奪われてヨボヨボになった荒地の魔女もついてきて、ハウルたちの「家族」は一気に賑やかになりました。
ハウルが戻ってくるまでの間、心配で仕方ないソフィーは夢を見ます。
夢は、潜在意識の世界と言われています(フロイトやユングが研究した分野です)。人が無意識のうちに感じている「本音、恐れ、憧れ」などが夢に現れるということです。夢診断とか夢占いとか、一度は聞いたことがあるんじゃないでしょうか?
ここではソフィーの本音や恐れが夢として表現されています。
・ハウルの呪いを解いて助けたい(本音)
・ハウルを愛している(本音)
・ハウルに受け入れてもらえないかもしれない(恐れ)
・自分はハウルを救えないかもしれない(恐れ)
・それどころか自分の呪いも解けないかも(恐れ)
・ハウルがどこかへ行ってしまう気がする(恐れ)
本音を表す夢の中では、元の若い姿。ということは、ソフィーは「本当の自分」であるとき若返るのだと分かります。
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ハウルたちの契約(呪い)は、カルシファーの「オレたちにはもう時間が無いんだ」という台詞から、どうやら期限が近づいているようです。ソフィーが「ハウルが魔王になるってこと?」と聞くと「そんな事オレの口からは言えないよ」と返しているので、
・契約の期限がもうすぐ切れる
・それまでに誰かが見破って解消しないと、
ハウルが完全に心を失くし魔王になる
・カルシファーは消えてしまうか、永遠に戻れなくなる
といった所かな?と思います。
本来ならストーリーの軸になりそうな設定ですが、なんだかそれほど重大なこととして描かれていないのよね。笑 この「悪魔との契約を暴いていくだけの冒険物」だったら、どんなに分かりやすかったことか…。ともかく、この「呪いを早く解かないと」というのがソフィーの焦りになっています。
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夢のシーンのあと、ソフィーの心配とは裏腹に、ハウルは無傷で飄々とした様子で戻ってきます。サリマン先生の手下をとっととまいて、この後に出てくるソフィーへのプレゼントを街で買っていたものと推測できます。この時点ですでにすれ違いは始まっているとも言えますね…苦笑
そして一家は魔法で引越しをします。ハウルは
・ソフィーが安心できる故郷の帽子屋を新居に選び
・新しく部屋を増築し、ソフィーの部屋も作り
・リボンをかけた沢山のプレゼント(服や帽子)を用意し
・美しい庭を「ソフィーへのプレゼント」と言って贈ります。
完全に「愛するたった1人の女性」への接し方ですよね。
ソフィーは懐かしい部屋を贈られて感動する(若い姿に戻る)ものの、またすぐに冷静になっておばあちゃん姿に戻ります。ハウルから貰った大量の服には、喜ぶどころかまさかの目もくれていません。笑
ハウルの事が好きで追いかけてきたのだから、こんな風にしてもらったら嬉しいはずなのに、ソフィーは何か引っかかっていて素直に喜べない様子なのです。
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庭に連れ出されたソフィーは、その庭の美しさに感動して若い姿に戻り、やっと心を開き始めます。
「本当のことを言って。私、ハウルが怪物だって平気よ」「ハウルがどこかへ行ってしまう気がして怖い」という心の内を話します。
ハウルは、ソフィーたちが安心して暮らせるようにしたいんだと答えるのですが、ソフィーは「そうしたらハウルは行っちゃうの?」とますます不安になります。
そして「私、ハウルの力になりたいの!」と力を込めるのですが、その後に急に「私、綺麗でもないし、掃除くらいしかできないから…」と、自分でなんやかんや言い出しておきながらやっぱり自分の無力さを感じて、勝手に自信をなくしていくように見えます。
そこでハウルが「ソフィーは綺麗だよ!」と面と向かって真剣に言うのですが、その途端にソフィーはおばあちゃんの姿に戻ってしまいます。そして「年寄りの良い所は、失くすものが少ないことね。」と安心した表情を浮かべます。
ここ、なんだかよく分からない、不完全燃焼感の強いシーンですよね。では、がっつり解説していきますよ!
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ここから読み取れることを挙げていきます。
まず、ソフィーの見た目について。
自分にとって都合がいいからこそ、ソフィーは自ら望んでおばあちゃんのままでいるのだという設定が、これでハッキリと示されました。
ソフィーにとって、今やおばあちゃん姿は「ペルソナ」です。付けているほうが都合がいい仮面なのです。そのペルソナの意味する役とは、90才の掃除婦であり、ハウルのお母さん代わり。それならソフィーは自信があります。掃除したり、ご飯を作ったり、家族の世話をする、落ち込んでいたら話を聞いてなだめる。現状、そういう役割としてなら自信を持ってここにいられるのです。(ちょっと見直して前回とは解釈を変えました)
ですが「女として」愛を向けられた途端に、自信がなくなって受け取れなくなってしまうのです。ちょっと不思議な気がしますよね。ずっと追いかけてきた好きな人に好きだと言われても、いやいや私なんて、と受け取り拒否しているのですから。
これを単に「ソフィーは自信がないから」で済ませてしまうのは、スルメ的にもったいない気がします。ここはもうちょっとしゃぶりがいがあるぞ!笑
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というわけで、次に、「ソフィーの本当に言いたいこと」をこのシーンから読み取っていきます。
ソフィーは、ハウルからの愛を素直に受け取れていませんでしたね。
あれには実は2つの理由があったんです。
1つは、ハウルの呪いのことが心配だから。
もう1つは、ハウルに愛される理由がわからず不安だから。
いずれも「男性性」の心配ごとです。
ソフィーがハウルの呪いについて心配している事は明らかです。ソフィーはカルシファーからしか契約の話を聞いていません。「本当の事を言って」というのは、「契約っていうのはなんなの?もうすぐ切れる期限で、一体あなたはどうなっちゃうの?どこへ行こうとしているの?どうすれば救えるの?」ということを聞きたいのです。
ソフィーは「ハウルの本当の姿が怪物のほうで、カルシファーとの契約で人間になっている」と誤解しているようにも思えますね。
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そして、次。ハウルに愛される理由がわからなくて不安、という点です。ここが本日の1番大事な部分です。
「私、ハウルの力になりたいの。私、綺麗でもないし、掃除くらいしかできないから…」という台詞。
サラッと聞けてしまうのですが、これめちゃくちゃ難しい台詞です。
・綺麗でもないし、掃除くらいしかできない
↓「だから」
・力になりたい
と言ってるんです。
ちょっと意味不明でしょ?なんだこれ???でもちゃんと意味があったんです。ソフィーが本当に言いたかったことはコレです。↓
「私、ハウルに愛される資格なんてないわ。理由が分からないの。だって私は綺麗でもないし、掃除くらいしかできないんだもの。あなたは今、何か大変な状況なのよね?だったら私に手助けをさせてちょうだい。力になりたいの。それであなたを救えたら、私、あなたに愛される資格があると思えるから…」
です。おー!謎が解けた!!!これでしょう?これでしょう、ね、駿先生?(自信ありげ笑)
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とはいえ、ハウルは既にソフィーを愛していて、明確な理由もあります。それは、ハウルの態度が変わる前にちゃんとあります。
1つは「ソフィーが心の理解者であること」。寝室のシーンですでに弱さを見せていて、ハウルにとっては唯一心を許せる相手になっています。
もう1つは「サリマン先生との戦闘で助け合ったこと」。ハウルは既にソフィーによって命を救われています。そして同時にハウルもソフィーを救っています。ハウルにとっては十分感謝しているし、絆を感じたのでしょう。
何より「守りたいと思った」ことで、ハウルはソフィーへの愛を自覚したのだと思います。
でも、ソフィーにとってはもう一つ自信が持てない。そして「ハウルは何を考えているか分からない」と思ってもいます(サリマン先生のシーンで台詞があります)。
・ハウルはソフィーを信頼しているのに
・ソフィーはハウルをいまいち信頼できてない
のです。
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なぜか?
というと、それは「ハウルがなぜソフィーを大切に想うようになったのかを一個も伝えてないから!!」です。はい出た、モテ男恋愛下手説。笑 要するにハウルさん、「口説く」ということを知らないんですよね。
なぜ、いつから、こーゆーキッカケであなたのことを好きになったんだよ、あなたのこんな所に感動したんだ、どれほど大切なんだ、だから僕には君しかいないんだ…とかってことを語って「口説く」ことをしない。というか、する必要があると思ってもない。
モテるということは、常に言い寄られる側だからです。イケメンでもなくモテない人ほど、頑張って相手に伝えないと成就しないと思っているので、なんとか愛を語って伝える努力をするよね。
でもハウルはモテまくってきたから「今までそんなこと必要なかったし、プレゼントを贈れば女の子はみんな感動して喜んでくれたし、世の中の女性全員それだけでイケると思ってた」わけです。「口説くって、何それ?美味しいの?」的な、凡人にはちょっと嫌味に感じる「モテ男あるある」なんだと思います。これ自分でなかなか気に入ってる解釈なんですが、いかがでしょう?笑 そう考えると不器用で可愛いよねハウル。
しかしイケメンだろうとそうでなかろうと、あるいは男でも女でも、「口説く」とか「愛を語り合う」というのは実はめっちゃ大事なことです。なぜなら、女性性が「カッコいい!」「素敵!」あるいは「可愛い!」といった感覚で恋に落ちるのに対して、男性性は「ふん、オレが納得できるように説明してみろ!」と必ず論理性を要求するからです。
これ、女でも男でもあるよね。ドキドキするとか居心地がいいとかの感情だけではなく、果たしてこの人と長期的に良い関係性を作っていけるだろうかとか、浮気しないだろうかとか、あるいは「なぜ他の人ではなく、この人がいいのか」みたいな事を絶対考えるはずです。これが男性性の働き。言ってみりゃ「うちの娘をそんな簡単にお前にはやらん!」って言ってるお父ちゃんみたいなものです。誰しもそんなお父ちゃん=男性性を心の中に住まわせているってことですね。
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で、話を戻すと、ソフィーは今「ハウルの呪いの事」と「愛される理由」が分かっていません。男性性が「なぜうちのソフィーを好きになって、どれくらい愛してるんだい?それから、今キミにはどんな問題が起きてるんだい?先のことはどうなる?ちゃんと全部説明してくれるかな、ハウル君?」状態なんです。笑
でも結局、この庭のシーンで、ハウルはそこら辺をちゃんと説明しません。手に入るかどうか分からない未来の話(小屋でソフィーがお花屋さんをやるとか。でも自分がそこにいる確証も無いみたいな話)をするばかり。しかも、愛を素直に受け取ってくれないソフィーに不満を感じているようで、おばあちゃん姿に戻るソフィーにイラついた表情を見せてしまっています。
一方、ソフィーはソフィーでなんとか自分の男性性を納得させたいので、ハウルの現状を聞き出そうとするし、「私が愛される理由」を自分から作りに行こうとしているんですね。「綺麗でもなく、掃除くらいしかできない私」だからこそ、「ハウルを救った特別な私」になりたい。自分の男性性を納得させたいと言っているのです。うわーなんて健気。笑 ソフィーがんばっとる。えらい!
…こう書いてしまうと、おいおいハウルがんばれよ的な感じになってしまうのですが(個人的にはそう思う笑)、まぁどっちでもいいのよね。極論、自分たちが幸せならそれで良い。ある意味で、このハウルのダメさ加減がソフィーをいい女にさせたとも言えるので、それはそれで良いんじゃないでしょうか。最後のシーンでは仲睦まじくしているので、その頃には「愛を語り合う」ことができたのではと思います!
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というわけで本日の解説はここまでです。いかがだったでしょうか?このように男性性と女性性という切り口で見ると、実生活でも色々見方が変わりそうですね。
長文お読みいただきありがとうございました♪感想や自分はこう思ったなど、お気軽にお寄せ下さいね!