『君たちはどう生きるか』とは何だったのか?〜ヒサコは今も生きている説〜
宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』、遅ればせながらやっと観てきました。
いや、これはキョトンだよね笑
でも私としてはかなり面白かったです。
エンドロールをぼんやり見つめながら、走馬灯のように色々なシーンが蘇り、繋がっていった。こういう経験をした映画は初めてです。
この作品が分かりづらい要因の1つは「説明的な会話」があまりにも少ないから。ドラえもんの映画みたいには状況を喋ってくれません。。。誰がどういう背景を持っているのか、今どんな状況なのか、ストーリーの中に入ったつもりで推察するしかないんですよね。
そしてもう一つは「メッセージが無い映画だから」。世の中に伝えたいメッセージってものが見当たらない。だから「これは何?」ってなる人が大量発生するのはめっちゃわかる。
たぶんこれは宮﨑駿監督が人生を通じて見てきた「人間世界観察記」として鑑賞すればいいのだと思うんです。
まあ強いていうなら「人間世界ってこんな感じだよねー。どう生きてたってみんな健気で愛おしい存在だよ。ならば、君たちはどう生きたい?」ってことなのかなと。
とはいえ情報を取りこぼすとストーリーすらよくわからないので、描写と会話の内容から私が読み解けたことや主観的な推察をつらつらと書いてみます。
一回観ただけなので、勘違いとか思い込みはかなりあると思います。あと完全ネタバレですのでご容赦を!
観た人はコメントで絡んでくれると喜びます。笑
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初期設定
・ヒサコと夏子は大富豪の家のお嬢様。少女時代からあの屋敷に住んでいたことからわかる
・つまり、野心家の勝一はヒサコと結婚し、この家の婿養子になることで飛行機工場経営者の地位を得たと思われる
・ということは、ヒサコが亡くなったら妹の夏子と即再婚するのは当然のシナリオ。そうしなければキャリアが危うくなるから。勝一は、結婚を出世のカードとして利用しているタイプの人間だとわかる
夏子が下の世界に行った理由
・夏子の体調が悪くなったのは、心配をかけた眞人のせいではなく勝一のせい。夏子の部屋にジャケットがある=仕事が終わってから夜に来ていた証拠。
・ということは、おそらくつわりの酷い夏子に性交渉を強要していたのだろうし、遠慮なく煙草をふかしまくった形跡もある
・だから夏子の体調悪化は明らかに勝一のせいなのだが、それを眞人のせいにする発言をしている
・よって、勝一は仕事はできるけれども自己中で未熟な側面があることが分かる
・そんな折、大叔父が下の世界に夏子の産屋を用意して、青鷺に案内させた。もしくは、夏子のほうから助けを求めた。
・夏子は、このままでは赤ちゃんの命が危ないと察していた。たぶん切迫早産とかそんな感じ?眞人の言う「夏子さんは来たくて来たんじゃない」はそういう意味。
・なのでヒミが「夏子は帰らないと言っている。ここで赤ちゃんを産む」と言っているのも本当。赤ちゃんを無事に産むために帰れない。
・だが、ヒミはまだ子どもなので詳しいことは理解しておらず、眞人を案内してしまう。
大叔父の目論見
・大叔父の目的は、下の世界の跡継ぎを得ること。夏子の産んだ子を跡継ぎにしようという目論見だったのでは?
・だから、夏子の産屋に入ること=この世界の新しい君主の命に関わること=禁忌
・しかし眞人が来たことでやっぱり眞人に頼んでもいいか、と思った。青鷺を使って何度も眞人を誘拐しようとしていたことから、最初のターゲットは眞人だった可能性が高い。
・血の繋がりが必要だと言っているので、大叔父的には別に眞人でも夏子の子でも良かった。どっちかが継いでくれればそれでいい。血の繋がった男の子を探していただけ。
夏子の心情
・夏子は赤ちゃんの命を守りたいと同時に、ぶっちゃけ君主の母としてこっちで生きられるのなら、勝一に我慢して暮らすよりマシかもと思っていた可能性もある。体調悪化もあいまって、夏子はこの時点でかなり病んでると思われ。
・そもそも夏子は当初、赤ちゃんができて新しい家族と仲良く楽しくやっていくイメージしかなかった。苦労するイメージはたぶんゼロ。人力車のシーンでの会話から。
・ところが現実には、眞人は初日から学校でいじめられて不登校、自分に対しても他人行儀で受け入れてくれない。勝一は自分勝手で、身重の自分も赤ちゃんも大切に扱ってくれない。あげくつわりも酷く、赤ちゃんの命が危ない、自分の命もどうなるか、というのが今ここ。
・そういうわけで、夏子はかなりメンタルも身体もぼろぼろで避難してきたんだと思う。だから眞人が来たことを歓迎できない。
・が、眞人が自分のことを「お母さん」「夏子母さん」と呼んで、家族として仲良くやっていこうという意思を見せてくれたことで、心が動いた。
・夏子はもともと気が強そうに見えてそうでもない。お嬢様育ちだから気丈に振舞うクセがついているだけ。眞人の怪我そのものの心配よりも、怪我をさせてしまった(わけではないのに)自分を責めて泣くようなメンヘラ気質もちゃんと持ち合わせている。
・また勝一に対して言い返せず、こっそり抜け出して大叔父に助けを求めたことからも、さほど気が強いタイプとは思えない。
・とはいえ、赤ちゃんを守るために自分1人で決めて行動する強さは持っているので、頼りないほど弱いというわけでもない。
・言うなれば(内面的には)「どこにでもいる普通の女性」。
・で、「思っていたのより現実が厳しかった」ために弱り、自信を無くしてしまっているのがこの時の夏子。
・駿監督はこういう姿に対してどうあるべきだとかは全く言ってない。「そーゆーもんだよね人間って」とただ率直に描写し、愛すべき健気な存在としてそのまんま描いているだけ。
眞人の心情と大叔父の動き
・夏子の産屋にあった紙の飾りは、大叔父の式神。
・大量の紙が「全身に巻かれた包帯」に見える描写がある。
このシーンで、眞人は夏子に対して「お母さん」と初めて呼んでいる。包帯がほどけて、ヒサコが火事から生還したようなイメージ。母と夏子を重ねて受け入れた眞人の心情を表している。
・大叔父は式神を通じて、ヒミの行動をリアタイで知っていた。そしてヒミと眞人を吹っ飛ばして気絶させたのも大叔父。
・インコ大王にヒミをとらえて連れて来るという盛大な茶番をやらせることで、眞人をおびき寄せた。眞人が君主の器かどうかテストしたようにも見える。
キリコ
・下の世界でのキリコとヒミの距離感から、2人が一緒に異世界に来たとは思えない。こっちで出会ったと考えられる。
・キリコとヒミ=ヒサコは一緒に元の世界に戻ったものの、下の世界での記憶を無くしていたはず。だから、キリコはその時をきっかけに屋敷の召使として雇われたと思われる(記憶喪失の人が迷い込んでるから助けてあげよう、みたいな?)。
・ばあやの中で名前が1人だけ「あいうえお」で始まらないのは、別系統の人間だから。キリ=終わり。最後に入ったことを表している。
ヒサコの正体
・「ヒサコ」「ヒミ」は火属性を表す名前。ヒミは「火の神」。キリコに「ヒミ様」と呼ばれていることからも、普通の人ではなく特別な存在だと分かる。
・ヒサコだけが下の世界で別の名前を持っている。駿監督は意味のないことはしない。笑
・ということは、ヒサコの本来の姿は「ヒミ」のほうで、一時的に人間として暮らしていた火の神なのでは。
青鷺の「ご遺体を見ていないでしょう?」というセリフや、炎に包まれて天に舞い上がる描写、そしてヒミが将来火事で亡くなると聞かされても全く恐れない様子から、実は火事で亡くなったのではなく「火の神に戻った」つまり今でも生き続けていると推察できる。
神殿とペリカン
・下の世界で封印されているのは「悪意」。存在はするが、あのように神殿で鎮められている。
・ペリカンは貧困のメタファー。魚が取れず空腹に苛まれ、不本意にもワラワラの命を奪わなければ生きていけない、という業を背負わされている。だからいっそのこと「悪意」に救いを求めて、あの扉に度々押しかけている。カルト宗教、ドラッグ、犯罪などに走るこの世の原理を描いているのでは。
下の世界の終わり
・下の世界が崩れたのは(インコ大王は置いといて)、完璧でクリーンな世界を次の世代に求めたことがそもそもの過ちだから。理想論を若者に押し付けるのは年寄りのエゴ。若者が経験する権利を奪っちゃいけない、的な。老害ってやつね。
・人間の世界ってやっぱり悪意を端によけて封じても消せはしないし、完璧でなくて必死になるからこそかわいらしくて愛おしいんだよな、ってこと。
・ジブリの若手にあーしろこーしろと理想論ばっか言わないようにしよう、という駿監督の自戒も込められているのかも。笑
・そして、最後はよく分かってないバカな奴が突然怒りに任せてぶっ壊してくるの、あるあるだよなぁーっていうのがインコ大王。盛大にトンチンカンなんだよね理由が(こんな積木に世界の運命を委ねていたのかとキレる。いやいや今そのレベルの話してねんだよっていう笑)。まあこれは、政治なり社会なりに対して駿監督が感じていることの風刺かもしれませんね。
勝一の人間的成長
・元の世界で、勝一は夏子と眞人を探してなりふり構わず走り回っている。仕事もほったらかしている模様。男性って失って初めて大切さに気づくことってあるよね、っていうあるある話。笑
・日本刀をベルトにさして出陣しているのは、夏子と眞人のために命を賭けて戦うぞという決意の現れ。仕事人間で自己中だった勝一が「プライベートないち男」として試され、愛する者のために戦う「真の男」になった瞬間。
・その後「眞人ーー!」と全力で叫びながら駆け寄ってきたり「眞人がセキセイインコになっちゃった?!」とアホ面で慌てているなど、つまらんプライドを捨て去って等身大むき出しになった勝一の姿が描かれている。これが本当に、いい。帰ってくる夏子と眞人にとっての救いは、勝一のこの人間としての成長にある。
・っていう所まで綿密に考えて描いているのが駿監督のすごさ。あれもこれも伏線回収されないまま終わるアニメ作品もある中で、ここまできっちりやり切るからやっぱ別格なんだわ。しかも無駄に「オレがまちがってたんだぁ泣」みたいな台詞とか入れない所が、いい。うん。
男性キャラまとめ
出てくる全ての男性キャラの中に駿監督がいて、人生で関わってきた男性の人たちがいるのだと思う。父、祖父、叔父、恩師、同僚、友人、先輩、後輩、弟子、息子、、、。そういう人達をモデルに、さまざまなキャラを通じて、ありとあらゆる角度から男性という可愛い生き物を描いているのだと思う。
特に青鷺ってのが情に厚くておっちょこちょいで、叱られたらシュンとして、仲間思いで健気でさびしんぼで、男性の愛らしい側面をよく表してるなぁと思う。青鷺の切ない後ろ姿が毎回味わい深くてマジで最高。笑
青鷺は「カッコつけてもどうせ中身は不細工なおっさん」「隠せない、バレてるよ」「でも可愛い生き物だろ?」っていう、男性の象徴的存在なんだろうと思う。
女性キャラまとめ
出てくる全ての女性キャラに、母親や妻の投影と共に女性に対する憧れと畏怖が詰まっていると思う。やっぱ女には勝てましぇん!みたいな印象を受ける。それはヒサコ・夏子のような儚く美しい存在にしても、キリコのようなたくましい存在にしても。いずれにしろ女性にはかなわないんだよな感を私は強く感じた。
特に、眞人と青鷺がキリコの家でチンと座らされてお説教されているシーンが最高!2人の背筋の伸びた後ろ姿が可愛いことこの上ない。そしてキリコさんの「喧嘩したの?お茶飲んで仲直りして、仲良く行ってらっしゃい!」はもはや2人の母ちゃん。そーゆーまとめ方、共感しかない笑
若い時の儚い神秘性も、たくましい母性も、年老いたときのチャーミングさや図々しさも、さすが駿監督よく見てんなぁって感じ。こちらもさまざまなキャラを通じて、女性という愛おしい生き物を描き切っていると感じます。
総括
全般において「こーゆーもんだよね、人間って。この世界って」という「描写してるだけ感」がすごい。あれが正しい、これは間違い、こうするべきだ、あれはダメだ、というジャッジを全く感じない。
この美しい世界、悪意も自分勝手も因果も全て内包し、それでも健気にたくましく生きる者たちの世界を、ただただ観察し描写して「こーゆーもんだよなぁ」ってうなづいているように私は感じた。
本当の意味でこの世を愛しているというか、ありのままを慈しんでいるようで、「ハヤオそろそろしぬのか説」が出てくるのも分かる。笑 いやー本当凄かったです。もっかい、いや何回も観たい作品ですね!皆さんはどう感じましたか?^^
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