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年の瀬川

年の瀬の東名高速道路の渋滞は、絢爛たる川だった。

フロントガラスの半分より上には、世界が逆さまでない隠れた恩恵を覗かせるように、底のない暗い空がまたがる。

さらに三分の一の高さには、光る橙を灯した一本草が並び、宙にもう一枚の滑走路を浮かべるも、そこを走る車は一台も見えない。

誰も走れない滑走路の下で、ようやく、尻に赤を灯す車たちが等間隔に流れていく。

これほどの赤い蛍を見る川を、決して濁流とは呼ばない。そう頑なに思っている。もう意地かもしれない。

各都市より乗り込む蛍の中に、灯る命は寡黙に見える。

無言の鉄の塊の中に、本当は唸りけたたましく鼓動を叩くエンジンを搭載していることを、忘れたように。

赤より紅く。
白より皓く。
難く、柔らかく。

本当は、本当には、毎瞬慟哭をあげ脾を焼いて、その代償を伴って、なお生きている。
そう頑なに言い張り続けなきゃわたしじゃない、くらいに、慟哭したい自分もいる。

もし深く沈殿物にズブズブに塗れてもなお、信じないと言い張ったとて、この躯体は灯りを燃やして走る。

なあ、そうじゃないのか。
そうじゃないというのか。

ここの、この無神論者にも、諸法無我は、過去の死人を遺した死人たちによって、その言葉は届けられたというのに。

あれを届けたのもまた、この川を流したのもまた、流れるのもまた、蛍だ。
尻を燃やさない蛍も、蛍だろう。

なあ。そうじゃないのか。
そうじゃないというのか。

川は流れる。流れ続ける蛍と共に。
流れる真っ直ぐなものを、川、と懸命に信じながら。


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帰省中の一幕。

年末年始は沢山書きたいな。