マルセル・プルースト 『失われた時を求めて 第6篇 逃げ去る女』

(2020年の27冊目)第5篇の終わりで同棲していた恋人、アルベルチーヌから逃げられた語り手のその後を描く第6篇。これまでの伏線や人間関係が意外な結果を生んだりして(それゆえに、一度読んだはずなのにまったく覚えてない! という思いに何度も襲われる)かなり面白い。長い長い小説の読み甲斐を感じさせてくれる。

で、まあ、ネタバレですけど、アルベルチーヌは馬から落ちて急逝します。そこからの語り手の行動が変態的で最高。同棲中からアルベルチーヌの同性愛に激しく嫉妬をしていた語り手だが、アルベルチーヌの死後になって一層「実際あいつはどのぐらいヤッてたのよ」という調査のためにあちこち人をやる。それで、出てくる、出てくる。行きずりの女や身分の卑しい女たちとめちゃくちゃ遊んでるし、語り手とも仲良い女友達ともヤッているのですね。で、語り手がすごいのは、そういう失った恋人がかつて関係を持った女たちと次々に契っていく、というね、この「上書き保存」? なんかわかんないけど、ある種の喪の儀式を繰り返して、アルベルチーヌの死を乗り越えようとする。ただ、ヤりたいだけかもしれないけども、スゴい。

で、無事(?)語り手はなんとかなるんだけども、その悲しみ(本当に悲しいのか? って感じだけど)が事あるごとに思い出しちゃったりする、その描写が巧み。例えば、旅行先のヴェネツィアでパリで交流を持っていた愛人関係にある年老いたカップルを見た瞬間に「あー、もしかしたら俺もアルベルチーヌとこんな良い感じの関係になれてたのかもなー」みたいに思い出す。そういう記憶の想起は、間歇的なものは、本作品のなかで繰り返されてはいるが、改めて読みどころだな、と。

ヴェネツィア旅行からは、帰る帰らないでまたわけわからん揉め事があるのだが(結局、帰る)、そこからの展開も良い。え、あの人とあの人が結婚!? というニュースが2つ、語り手の元に届いてから、大きく話題は変わるけれど「え!? お前も同性愛者だったんかい!」っていう驚きが待っていて、また、語り手の初恋相手との和解のようなエピソードの挿入も良い。

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