藤本隆宏 『生産システムの進化論: トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス』

(2020年の33冊目)栗林健太郎さんが「実際に読んで選んだマネジャーのための100冊」というブログ記事で紹介していて長らく気になっていた本。まあまあ値段も高価なので「欲しいものリスト」に入りっぱなしの期間が長かったのだが、コロナ蟄居中に魔が差した瞬間に購入することができていた。それが今年の3月だったらしい。勝手からもしばらく積んでいた。

著者は長らく日本の自動車産業について研究してきた研究者で、本書では進化論的なアプローチによってトヨタがなんで世界のてっぺんをとれたのか、っていうのを分析している。自動車産業といえば今でも日本の主要産業のひとつであるし、その発展の歴史的記述は、日本産業史の重要パーツのひとつとして読まれるべきであろう(し、大変面白い)。栗林さんに直接本書を読むきっかけについて伺ったらこんなことを言っていた。

結論をかいつまんで言うと、トヨタといえばジャスト・イン・タイムとかカイゼンで徹底してコスト削減してバキバキに合理的に組織を作ることで成功した会社、という見方をされがちだが、それはごく一面的なものにすぎず、経営者のヴィジョンも成功の一因だったろうし、そもそもプロダクト開発の段階から部品メーカーに部品設計から投げていくこと(承認図方式と呼ばれる)で開発スピード向上したり、開発コスト下げたり、っていう様々な要素が絡まって成功したんだよ、と。そういう複合的な要因、意図せざる結果としての成功などをひっくるめて「創発プロセス」と著者は位置付けている。

本書の知見をなんらかの組織づくりに活かすのであれば、承認図方式的のように外に仕事を投げていく(必要な要件を提示して、あとはおまかせしていく)というのは、そういうチームができたらいいよね、って思う。メンバーが高い自発性を発揮できて、かつ、フィロソフィーとかヴィジョンとかを共有できている状態。かつ、作業は徹底的に標準化されている。それは生産性高いだろう、と思う。

日本の自動車産業のはじまりから90年代半ばまでバブルも崩壊してしまって、かつ国外メーカーが日本の自動車メーカーのやり方を真似してキャッチアップしてきたときまでを本書は扱っている。日本の自動車メーカーの勢いに陰りがでてきてしまったころまで。面白い指摘だと思ったのが、その陰りの要因の一つに、日本のメーカーが生産性高すぎてそれを過剰に使用していたからコストがあがったり、市場にマッチしない製品投入につながってたんではないか、というもの。チームの能力と環境のギアがかみ合っていなかった、とでもまとめられるだろうか。

そういう不具合に対してうまいこと調整や方向転換がするのが、マネジメントや経営の仕事なんだろうなあ。90年代からさらに30年近く経って日本の自動車メーカーも大きく変化している。本書の続編的なものがあればぜひ読みたいところ。

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