平易な言葉で書かれてはいるが…… ジャック・ラカン 『精神病』

(2020年の7冊目)ジャック・ラカンの講義録シリーズ『セミネール』の第3巻。1953年から行われてきた講義のうち、3年目の1955-56年の講義を収録しているのがこの『精神病』。アマゾンのレビューでも「『セミネール』ならまずはココから」とか書かれているが、そもそも『セミネール』の邦訳が出たのもこれが最初であってその重要度もわかる。ジジェク(ブルース・フィンクか?)もこの本を入り口にすべき、みたいなことを書いていたかもしれない。

長らく「ラカン入門」をいろいろ読んできて「ラカン入門についてはベテランの領域に達してきたのではないか」という自負さえあるわたしだが、これがようやく「本丸」であるラカン自身の著作への最初のアクセスなのだった。まず全体を読んでみての感想だけれど「『エクリ』は激烈に難しいけど、『セミネール』はわかりやすい」という通説は、たしかにそうなのかも、と思った、が「わかりやすい」というのはかなり誇大広告的であり「読みやすい」ぐらいにしておくべきだろう。

講義録なので平易な言葉で綴られているし、時折ラカンも下ネタを言って喜んでいるようなところがあって面白い。また、分析家の卵たちに対して臨床的にあるべき態度や注意点などを述べている点は、(わたしが従事しているコンサルタントの仕事も含めて)ある種のナラティブを扱う仕事をしている人にはかなり参考になる、というか、使える、と思う部分も多い。

しかし、わかりやすくはない。というか大部分が「書いてある意味がわかるが、何いってんだテメー?」みたいな感じな気がする。いまこの文章を書く直前にジジェクの『ラカンはこう読め!』を参照してみたが、その巻末でもこんな文章があった。

(『エクリ』も『セミネール』も)両方読む必要がある。でもいきなりエクリを読み始めても何ひとつ理解できないだろうから、セミネールから読み始めるのがよい。ただしそこでやめてはいけない。セミネールだけを読んでも、何ひとつわからないだろう。セミネールのほうがエクリよりも明晰で透明だというのはまったく誤解である。(P. 219)

ジジェクが正しい!!

いっぽうで、このような「わからん!」現象との出会いによって、ラカンの学習計画をより明確にすることもできる。ハードモードを選択するのであれば、『エクリ』と『セミネール』を対応させながら読んでいく、という選択肢があるだろう。これはしかし労力がいる。のでラカンと並行してジジェクや他のラカン関連著作を読んでいくことで回り道をしながらソフトにラカン理論へと到達していく、こうしたアプローチを採りたい。ジジェクも「ラカンを理解する最良の方法は、ラカンのように世界を読み解くこと」と言っていることだし。

ともあれまずは『ラカンはこう読め!』の再読をしてみたほうが良いのかもしれない。


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