谷崎潤一郎 『陰翳礼讃・文章読本』

(2020年の47冊目)谷崎潤一郎の随筆と文章指南書をコンパイルした文庫本を手に取る。『陰翳礼讃』については文豪による日本文化論、と聞いていたのだが、たしかにそういう本であるものの、実際に読んでみると「最近の日本のトイレは西洋式でなんだか明るくて嫌だ、やっぱり日本のトイレは薄暗い感じ、なんか母屋からはちょっと離れたところで、木や苔が生えてて自然と一体化してるようなところが良いよね」みたいなトイレ論について長々と書いており、そういう本だったのかい、と驚いた。日本の女性の美についても語られているのだけれども、トイレ論の印象が強すぎる。「陰翳礼讃」なんてめちゃくちゃな画数の四文字が並んでいるところからは想像がつかない落差。

『文章読本』のほうが面白いのかもしれない。良い文章の書き方とは~、みたいな内容なのだけれど、その内容はもとより、日本語文章の表記法やエディトリアル・デザインといった文章における視覚的な部分についても、そのルールや体系がおそらくは定まっていないであろう時期に、ここまで谷崎が考えてたのか、という点が興味深い。

いずれも古い日本人が(その当時の)現代についてぶつぶつ言っている部分も目立つ。その当世への批判的な視点は本人も自覚しているようなのだが、その在り方や視座については、千葉雅也にも通じて読める気もする。

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