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いまこそ、本当のマルクスを 田上孝一 『マルクス哲学入門』

(2020年の18冊目)20世紀に最も影響を与えた思想家であり、かつて関心をもっていたアドルノを読むのにも避けては通れないながらも、敬して遠ざけていた(正確には『資本論』を通読しようとしたけど、岩波文庫の6巻で挫折した)マルクス。Twitterでこの入門書の良い評判を目にしたので読んでみたのだが、非常に勉強になるテクストだった。

本文が120ページぐらいとちょっとしたパンフレットとも言える小著なのだが、マルクスの理論的中心にその疎外論を置きながら『資本論』のエッセンスを伝えてくれる。俗流のマルクス理解・解釈の誤りを指摘し、裸のマルクス的なものを垣間見せてくれる本書のありがたさは一家に一冊レベルとも言えよう。

本書のなかで「で、マルクスは結局どういう未来構想を描いていたのよ」という部分に触れる際、『ゴーダ綱領批判』というテクストを紐解きながら著者の解釈が提示されているのだが、この部分がなかなか読みどころで。さまざまに解釈の余地があるところながらも機械によって既存の労働から人間が開放されるであろう来たるべき未来が間近に迫っているでのはないか、とも噂される昨今であるからこそ、マルクスを読むべきなんじゃないか、というか、マルクスの構想している未来って、そういうことなのでは、と思わされもする。

マルクスの疎外論(超かいつまんで言うのであれば、人間が金にコントロールされているような状態)において、疎外の要因は労働や分業とされている。強力なコンピューターパワーによって労働や分業から人類が開放されるのだとしたら、まさにそれはマルクスが理想形としたゲノッセンシャフトの実現なのであろう。このとき、ではそのコンピューターパワーの持ち主はだれか、という問題があるだろうけれども(ゲノッセンシャフトにおける生産手段は、共有財産でなくてはならない)。

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