逸脱した言語の用法とリアリティ 鈴木大介 『老人喰い: 高齢者を狙う詐欺の正体』

(2020年の8冊目)名著! 

著者へのこのインタビュー記事を読んで気になっていた本。高齢者を狙った特殊詐欺を世代間の階層格差という切り口から分析し、その手口や組織体系、あるいは人間ドラマとして描き出している。血の通った情景描写にはグイグイと読者を引き込む力があり、飲み込まれるようにして読み終えてしまった。手口の詳細な描写は「コレは引っかかるわ……」という迫力をもっており、離れた実家に高齢者や高齢者予備軍を抱えている人間には恐れすら抱かせるだろう。

最高だな、と思ったのは、詐欺グループの関係者から出てくる言葉の強さであって、それはことごとく言語の用法を逸脱しているようなのだが、その特殊な雰囲気こそが本書のリアリティを生んでいる。加齢によって判断力が衰えている状態を「バグる」と表現したり。さらに最高なのは、その特殊な言語の用法に著者自身も侵食されているようなところ。たとえば関係者の特殊な言語に対して説明が省かれたりしていく(「喝って齧る」→「喝(かつ)る=恐喝」&「齧る = 一度詐欺に引っかかった人から何度も金を取りに行くこと」とか)ところからもそれは感じられるのだが、まったく地の文のなかに「ロングの懲役刑」という言葉がでてきてきて、そのセンス最高、ってなってしまう。

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