生活における神託 暮らしの手帖社 『暮らしのヒント集』

(2020年の6冊目)こないだ喫茶店で見かけて気になった本。雑誌『暮しの手帖』の連載をまとめたもの。タイトルから「丁寧な生活を送るためのハウツー本」のような内容を想像してしまうのだが、実のところ、まったく違う。生活における神託めいたものを与えてくれる本だ。

たとえば、

36 雨の日はたくさん花を買ってきて、家のところどころに飾ってみましょう。暗い部屋のなかが、ぱっと明るくなりますし、いい匂いもします。

あるいは、

176 なんとなく気分が落ち着かなかったら、やかんを磨いてみませんか? 不思議に気分が落ち着くものです。

こんなお告げめいた文章が469個載っている。ここにはハウツー本では必ずある目的の設定が曖昧だ。「こういうことをしてみたら、なんか良い感じになるんじゃないですかね」というぼんやりとした提案が並んでいる。そのぼんやりとした感じがなんとも良いのだった。

毎日の生活の繰り返しのなかでは到底思いつかないようなヒントが外部からやってくる、この感じ。言葉たちが前触れ無く、まるで電波を受信するように、投壜に入った手紙を拾うかのように、訪れてくる本書の他者性がいま好ましい。

なお、本書の続編が松浦弥太郎名義で『2』、『3』と刊行されているがレビューを見る限り買わなくても良さそうだ。「松浦弥太郎の著作の焼き直し」、「どんどんクオリティが下がっている」など信憑性が高そうなレビューが並んでいる。松浦弥太郎は享楽的なものを感じているので、逆にそこを確かめに行く感じを楽しみたくもなるのだけれど。

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