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本の感想

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2020年に読んだ本の感想です。
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2020年2月の記事一覧

民藝はリアルか? 軸原ヨウスケ 中村裕太 『アウト・オブ・民藝』

『アウト・オブ・民藝』(2020年の13冊目)Instagramでフォローしている岩手の本屋さんが紹介していて気になっていた本。

自分は松陰神社前のnostos booksで購入した。民藝についてはほんのりした興味があったのだが、そんなに掘り下げることもなく過ごしていた。そういえば柳宗悦の本をなにか読んだ記憶があったが『茶道論集』に触れていたようだ。これはなかなか面白かった。昔の茶人は直観的にモ

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田舎貴族の食卓 辰巳浜子 『料理歳時記』

(2020年の12冊目)昭和37-43年に『婦人公論』に連載されていた食の随筆。四季折々の食材とそれにまつわる思い出などが綴られているのだが、これを「古き良き日本の食卓」を切り取ったものとして扱って良いものかはわからない。昔の品の良い金持ちはこういうモノを食べていたんだなぁ、とか思うだけで、良いともなんとも思わず。鎌倉のデカい家で家庭菜園をやっていた、みたいな話を読むとその暮らしぶりは田舎貴族的で

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体と言葉のあいだ、あるいは周縁へ思想 尹雄大 『脇道にそれる: 〈正しさ〉を手放すということ』

(2020年の11冊目)武術などを経由して語られる身体論を展開する作家、尹雄大のエッセイ集。刊行当初に買っていたのだが2年近く寝かせてしまっていた。

彼の身体論にも通じる《わかること》のわからなさや、無媒介のコミュニケーションの不可能性などが説かれている。身体から放たれる言葉(のようなもの)を汲み取るような仕事。そこから本書は、さらに正しいこと、真っ当であること、中心であることから離れるような生

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信仰と人間と 山田晶 『アウグスティヌス講話』

(2020年の10冊目)中世哲学研究の権威であった山田晶が1973年におこなった講話をもとにした本。全6講を収録しているが、タイトルにでているアウグスティヌスが前面に出ているのは第1講の「アウグスティヌスと女性」のみで、それ以外はアウグスティヌスの議論を根底に敷いた自由な講話のようである。面白いのは当時の世相や仏教といったキリスト教の世界とは別の確度からも議論を検討しているところで、それによって議

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恥ずかしくない英語のために 江川泰一郎 『英文法解説』

(2020年の9冊目。全部読み通したわけではないけれど)このところ仕事で英語を書いたり、話したりする機会が増えてきている。

過去ブログを紐解けば、特別目的意識を持つわけでもなく(それは最悪の勉強のはじめかたであるのだが)英語を勉強しはじめたのは10年ぐらい前のことであるようだ。それがいま花開こうとしているというわけで、過去の自分、Good job! な感じではある。

(過去の自分への感謝したく

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逸脱した言語の用法とリアリティ 鈴木大介 『老人喰い: 高齢者を狙う詐欺の正体』

(2020年の8冊目)名著! 

著者へのこのインタビュー記事を読んで気になっていた本。高齢者を狙った特殊詐欺を世代間の階層格差という切り口から分析し、その手口や組織体系、あるいは人間ドラマとして描き出している。血の通った情景描写にはグイグイと読者を引き込む力があり、飲み込まれるようにして読み終えてしまった。手口の詳細な描写は「コレは引っかかるわ……」という迫力をもっており、離れた実家に高齢者や高

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平易な言葉で書かれてはいるが…… ジャック・ラカン 『精神病』

(2020年の7冊目)ジャック・ラカンの講義録シリーズ『セミネール』の第3巻。1953年から行われてきた講義のうち、3年目の1955-56年の講義を収録しているのがこの『精神病』。アマゾンのレビューでも「『セミネール』ならまずはココから」とか書かれているが、そもそも『セミネール』の邦訳が出たのもこれが最初であってその重要度もわかる。ジジェク(ブルース・フィンクか?)もこの本を入り口にすべき、みたい

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生活における神託 暮らしの手帖社 『暮らしのヒント集』

(2020年の6冊目)こないだ喫茶店で見かけて気になった本。雑誌『暮しの手帖』の連載をまとめたもの。タイトルから「丁寧な生活を送るためのハウツー本」のような内容を想像してしまうのだが、実のところ、まったく違う。生活における神託めいたものを与えてくれる本だ。

たとえば、

36 雨の日はたくさん花を買ってきて、家のところどころに飾ってみましょう。暗い部屋のなかが、ぱっと明るくなりますし、いい匂いも

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