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日本の「これから」の戦争を考える

考えたくはないが 考えないわけにはいかない
そんなやな空気漂うなかで、何気にド・ストレートな一冊にチャレンジしてみた。

著者は元防衛大学の防衛学教育郡戦略教育室准教授。
防衛学教育郡戦略教育室ってどんなとこ? っていうと
こんなところです。

防衛学の中心的な科目分野であ る戦略、作戦、軍事と科学技術を扱っている」つまり戦争本番を過去の実戦などの分析していかに勝つための作戦や戦略を学ぶところのようです。

この本もまさにそんな内容でした。
構成はこのような流れで
第一部「新たな理論」
第二部「実戦からの教訓」
第三部「蓋然性のあるシュミレーションの考察」

第一部で広く戦争に関わる様々な概念など基本的事項を示し
第二部で過去の戦争の実例を取り上げて様々な角度から考察を加えて敗因、勝因を分析する。
そして第三部でそれらを踏まえたうえで将来、我が国で起こり得るであろう戦争をシュミレーションしてかなり細かいところまで具体的に述べている。

戦争は様々な地域で起こり得るものだが、我が国の現状を踏まえて本書では主に「島嶼防衛・攻略作戦」について述べられている。ちなみに蓋然性(がいぜんせい)という言葉を私はしらなかった。「もしかしたら起こるかもしれない」「ある程度起こり得る」という意味でよいようだ。

第二部で取り上げられた過去の実戦はこの2つ
ひとつは太平洋戦争の日米が争った「ガダルカナルの戦い」
そしてもう一つは「フォークランド紛争」

小生、子どものころから戦記物をよく読んでいたので、多くの日本兵が飢餓とマラリアなどの病で亡くなり「餓島」と呼ばれた「ガダルカナルの戦い」には少しぐらいの知識は持っているつもり。しかし、アルゼンチンが侵攻し英国が奪い返した「フォークランド紛争」には詳しくなかったので、たいへん興味深く読むことができました。

著者は「ガダルカナルの戦い」で、ほぼ全滅した一木支隊への思い入れが深いようで、このような著書を過去に出版している。

第三部では近年の中国の太平洋進出、主にソロモン諸島やフィジーなどの南太平洋に浮かぶ島々を巡る中国の外交的戦略。孫子の兵法「戦わずして勝つ」経済的にも軍事的にも、大国を目指す中国と米国陣営の軋轢がこの南太平洋を舞台に起こっていること。そして台湾という問題。あえて有事に至るシナリオを示し、それらに日本はどう対処するべきか。その具体的な行動が軍の作戦・戦略ともに示されていく。

総合すると、戦争に勝つためには適切かつ充分な軍備・兵力のみならず、情報収集力やサイバー戦略などが極めて重要であり、それらを同盟国、友好国と協調しながら整え、有事の際にその国々と強い協力関係を持っておくこと。国内においては国民の理解とその熟成、民間と軍の協調など様々な要素を整えることが必要があると、著者は過去の実例を元に、何度も様々な場面で強調しており、それには説得力もある。まさに今、沖縄先島諸島の住民の九州への避難計画が報じられているが、これもその経路の安全が確保されての話である。かっての沖縄から九州へ向かった学童疎開戦「対馬丸」が米潜水艦に沈めれたことは忘れてはいけない。

総論で著者は「日本の自立」と「日米同盟」による従属の選択であると述べている。これは日米安保反対ではなく、日本の「自主的な防衛努力」への期待である。そして「平和」のために国民ひとりひとりがこの議論に参加し合意形成を目指すことが大切であると。著者が最も望んでいるのはこの部分であるだろうし、それには私も共感できる。

そして最期にこのようにも述べている。

「結論として戦争は回避できる、と考えた。
 現代の打撃力はもはや地球規模での戦いを凌駕する。
 戦争を止めなければ人類は滅亡する崖っぷちまできているのである。」

戦争の専門家もこのように言わざるを得ない現状を思うと、これらの言葉の持つ意味は深い。そして残念ながら一読した限りではこの「戦争回避を示す道」は読みとることはできなかった。

それよりも、今の我が国の政府が進んもうとしている方向と、本書に書かれている内容はリンクしてるように感じられた。ただ、現政府のそれは報道により可視化されたものにすぎず、国民の合意形成にはほど遠いものであり、議論は置き去りにされたままだ。

具体的な近代の防衛戦略を知る意味で、本書は有益であった。それだけに今の「あやふやなまま」なんとなく有事の風に流されている我が国・日本への憂いは深まるばかりである。


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