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【300首】有名な現代短歌をいっぱい紹介したい!!!

こんにちは。歌人の工藤吉生です。


とつぜんですが、現代の短歌って、どんなのがあるんでしょうか???


短歌に興味をもちはじめたばかりの方のための、現代短歌まとめをつくりました。

この記事だけで約70人の歌人の約300首の短歌が読めますので、たっぷり楽しんでいってくださいね!


どの時代から「現代短歌」なのかというのはいろいろな考え方がありますが、ここでは2024年現在で65歳以下の方(1959年以降の生まれ)の作品を現代短歌とさせていただきました。だいたい俵万智さんや穂村弘さんから現代短歌が始まるかたちです。べつに一般的ではない分類ですが、ここではそういうことにします。


比較的に有名と思われる作品を広く浅く選んでみました。

順番は作者名のあいうえお順としています。

それでは、短歌の「今」を、ほんの一部ですが覗いてみましょう。



【参考文献】

小高賢編著『現代短歌の鑑賞101』

小高賢編著『現代の歌人140』

山田航編著『桜前線開架宣言』

東直子・佐藤弓生・千葉聡編著『短歌タイムカプセル』

ほか




◆◆◆◆◆

※『』内は歌集名。





【あ】


▼青松輝


いたる所で同じ映画をやっているその東京でもういちど会う
『4』


数字しかわからなくなった恋人に好きだよと囁いたなら 4
『4』





▼飯田有子


雪まみれの頭をふってきみはもう絶対泣かない機械となりぬ
『林檎貫通式』  


女子だけが集められた日パラシュート部隊のように膝を抱えて
『林檎貫通式』  


たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔 
『林檎貫通式』 




▼石井僚一


傘を盗まれても性善説信ず父親のような雨に打たれて
『死ぬほど好きだから死なねーよ』  


生きているだけで三万五千ポイント!!!!!!!!!笑うと倍!!!!!!!!!!
『死ぬほど好きだから死なねーよ』




▼伊舎堂仁


海だけのページが卒業アルバムにあってそれからとじていません 
『トントングラム』 


あるといいけれどめちゃくちゃこわいよね飲むとよく眠れる水道水
『トントングラム』


自販機へのぼる誰もがつま先をお釣りの穴にいったんいれて
『感電しかけた話』


その町にいればどこからでも見えるでかい時計の狂ってる町
『感電しかけた話』



▼今橋愛


たくさんのおんなのひとがいるなかで
わたしをみつけてくれてありがとう
『星か花を』



おめんとか
具体的には日焼け止め
へやをでることはなにかつけること
『O脚の膝』



「水菜買いにきた」
三時間高速をとばしてこのへやに
みずな
かいに。
『O脚の膝』  




▼井上法子


煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火 
『永遠でないほうの火』 


できるだけ遠くへお行き、踏切でいつかの影も忘れずお呼び
『永遠でないほうの火』


しののめに待ちびとが来るでもことばたらず おいで たりないままでいいから
『永遠でないほうの火』



▼上坂あゆ美


生きる犬は死んだライオンに勝つらしい わたし長生きのライオンになる
『老人ホームで死ぬほどモテたい』


お父さんお元気ですかフィリピンの女の乳首は何色ですか 
『老人ホームで死ぬほどモテたい』





▼内山晶太


ひよこ鑑定士という選択肢ひらめきて夜の国道を考えあるく  
『窓、その他』


ショートケーキを箸もて食し生誕というささやかなエラーを祝う 
『窓、その他』 




▼宇都宮敦


だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし 
『ピクニック』


牛乳が逆からあいていて笑う ふつうの女のコをふつうに好きだ
『ピクニック』




▼梅内美華子


生き物をかなしと言いてこのわれに寄りかかるなよ 君は男だ 
『横断歩道(ゼブラ・ゾーン)』  


ティーパックのもめんの糸を引き上げてこそばゆくなるゆうぐれの耳 
『若月祭』




▼江戸雪


膝くらくたっている今あとなにを失えばいい ゆりの木を抱く
『百合オイル』


近づいてまた遠ざかるヘッドライトそのたびごとに顔面捨てる 
『駒鳥(ロビン)』


いじめには原因はないと友が言うのの字のロールケーキわけつつ 
『百合オイル』



▼大辻隆弘


十代の我(あ)に見えざりしものなべて優しからむか 闇洗ふ雨
『水廊』  


あけがたは耳さむく聴く雨だれのポル・ポトといふ名を持つをとこ 
『抱擁韻』 


紐育空爆之図の壮快よ われらかく長くながく待ちゐき  
『デプス』


受話器まだてのひらに重かりしころその漆黒は声に曇りき
『抱擁韻』 


指からめあふとき風の谿(たに)は見ゆ ひざのちからを抜いてごらんよ  
『水廊』



▼大松達知


満員のスタジアムにてわれは思ふ三万といふ自殺者の数 
『アスタリスク』



かへりみちひとりラーメン食ふことをたのしみとして君とわかれき 
『フリカティブ』 


誤植あり。中野駅前徒歩十二年。それでいいかもしれないけれど 
『アスタリスク』 




▼大森静佳


われの生まれる前のひかりが雪に差す七つの冬が君にはありき 
『てのひらを燃やす』 


君の死後、われの死後にも青々とねこじゃらし見ゆ まだ揺れている 
『てのひらを燃やす』 


生前という涼しき時間の奥にいてあなたの髪を乾かすあそび 
『てのひらを燃やす』 




▼岡崎裕美子


体などくれてやるから君の持つ愛と名の付く全てをよこせ
『発芽』  


したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ 
『発芽』 




▼岡野大嗣


そうだとは知らずに乗った地下鉄が外へ出てゆく瞬間が好き
『サイレンと犀』  


ハムレタスサンドは床に落ちパンとレタスとハムとパンに分かれた
『サイレンと犀』  


脳みそがあってよかった電源がなくても好きな曲を鳴らせる 
『サイレンと犀』 


骨なしのチキンに骨が残っててそれを混入事象と呼ぶ日  
『サイレンと犀』




▼岡本真帆


ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし
『水上バス浅草行き』


平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ
『水上バス浅草行き』




▼荻原裕幸


たはむれに美香と名づけし街路樹はガス工事ゆゑ殺されてゐた  
『甘藍派宣言』 


見えてゐる世界はつねに連弾のひとりを欠いたピアノと思へ 
『永遠青天症』

    


桃よりも梨の歯ざはり愛するを時代は桃にちかき歯ざはり 
『甘藍派宣言』 


戦争が(どの戦争が?)終つたら紫陽花を見にゆくつもりです 
『あるまじろん』 


恋人と棲むよろこびもかなしみもぽぽぽぽぽぽとしか思はれず 
『あるまじろん』 


まだ何もしていないのに時代といふ牙が優しくわれ噛み殺す
『青年霊歌』  



【か】



▼加藤治郎


マガジンをまるめて歩くいい日だぜ ときおりぽんと股で鳴らして  
『サニー・サイド・アップ』


にぎやかに釜飯の鶏ゑゑゑゑゑゑゑゑゑひどい戦争だった  
『ハレアカラ』


たぶんゆめのレプリカだから水滴のいっぱいついた刺草を抱く 
『マイ・ロマンサー』  


ぼくたちは勝手に育ったさ 制服にセメントの粉すりつけながら  
『サニー・サイド・アップ』


だからもしどこにもどれば こんなにも氷をとおりぬけた月光 
『ハレアカラ』 


ほそき腕闇に沈んでゆっくりと「月光」の譜面を引きあげてくる  
『サニー・サイド・アップ』


1001二人のふ10る0010い恐怖をかた101100り0 
『マイ・ロマンサー』   

 


▼加藤千恵


まっピンクのカバンを持って走ってる 楽しい方があたしの道だ 
『ハッピーアイスクリーム』 


ついてない びっくりするほどついてない ほんとにあるの? あたしにあした
『ハッピーアイスクリーム』  


幸せにならなきゃだめだ 誰一人残すことなく省くことなく
『ハッピーアイスクリーム』  




▼川北天華


問十二、夜空の青を微分せよ。街の明りは無視してもよい  



▼木下龍也


B型の不足を叫ぶ青年が血のいれものとして僕を見る
『つむじ風、ここにあります』  

 

鮭の死を米で包んでまたさらに海苔で包んだあれが食べたい 
『つむじ風、ここにあります』 


カードキー忘れて水を買いに出て僕は世界に閉じ込められる 
『つむじ風、ここにあります』 


「いきますか」「ええ、そろそろ」と雨粒は雲の待合室を出てゆく
『きみを嫌いな奴はクズだよ』




▼黒瀬珂瀾


わがために塔を、天を突く塔を、白き光の降る廃園を
『黒耀宮』 


一斉に都庁のガラス砕け散れ、つまりその、あれだ、天使の羽根が舞ふイメージで 
『空庭』 


The world is mine とひくく呟けばはるけき空は迫りぬ吾に
『黒耀宮』  




▼小島なお


わたくしも子を産めるのと天蓋をゆたかに開くグランドピアノ
『サリンジャーは死んでしまった』  


きみとの恋終わりプールに泳ぎおり十メートル地点で悲しみがくる
『サリンジャーは死んでしまった』


桜散る川沿いにひと群れながら私たちみな川の見る夢
『展開図』




▼五島諭


歩道橋の上で西日を受けながら 自分yeah 自分yeah 自分yeah 自分yeah
『緑の祠』 


海に来れば海の向こうに恋人がいるようにみな海をみている  
『緑の祠』 


こないだは祠があったはずなのにないやと座りこむ青葉闇 
『緑の祠』 




【さ】



▼斉藤斎藤


ぼくはただあなたになりたいだけなのにふたりならんで映画を見てる
『渡辺のわたし』 


雨の県道あるいてゆけばなんでしょうぶちまけられてこれはのり弁 
『渡辺のわたし』


こういうひとも長渕剛を聴くのかと勉強になるすごい音漏れ 
『人の道、死ぬと町』



シースルーエレベーターを借り切って心ゆくまで土下座がしたい 
『渡辺のわたし』 


池尻のスターバックスのテラスにひとり・ひとりの小雨決行 
『渡辺のわたし』




▼笹井宏之


ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
『ひとさらい』   


それは世界中のデッキチェアがたたまれてしまうほどの明るさでした 
『ひとさらい』 


「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい 
『ひとさらい』  


一生に一度ひらくという窓のむこう あなたは靴をそろえる 
『ひとさらい』 


えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい 
『ひとさらい』


拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません
『ひとさらい』 


風。そしてあなたがねむる数万の夜へわたしはシーツをかける 
『てんとろり』 



▼佐々木実之


本当に愛されてゐるかもしれず浅ければ夏の川輝けり
『日想』  




▼笹公人


憧れの山田先輩念写して微笑(ほほえ)む春の妹無垢(むく)なり  
『念力家族』


「ドラえもんがどこかにいる!」と子供らのさざめく車内に大山のぶ代 
『念力家族』


シャンプーの髪をアトムにする弟 十万馬力で宿題は明日 
『念力家族』 


中央線に揺られる少女の精神外傷(トラウマ)をバターのように溶かせ夕焼け 
『念力家族』 


三億円の話をすると目をそらす国分寺「喫茶BON」のマスター 
『抒情の奇妙な冒険』 




▼佐藤真由美


この煙草あくまであなたが吸ったのね そのとき口紅つけていたのね 
『プライベート』 


今すぐにキャラメルコーン買ってきて そうじゃなければ妻と別れて 
『プライベート』 




▼しんくわ


シャツに触れる乳首が痛く、男子として男子として泣いてしまいそうだ 
『しんくわ』


我々は並んで帰る (エロ本の立ち読みであれ五人並んでだ) 
『しんくわ』 




【た】




▼田村元


サラリーマン向きではないと思ひをりみーんな思ひをり赤い月見て 
『北二十二条西七丁目』


封筒に書類を詰めてかなしみを詰めないやうに封をなしたり 
『北二十二条西七丁目』


俺は詩人だバカヤローと怒鳴って社を出でて行くことを夢想す 
『北二十二条西七丁目』 




▼俵万智


愛人でいいのとうたう歌手がいて言ってくれるじゃないのと思う 
『サラダ記念日』 


はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり 
『かぜのてのひら』  


思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ 
『サラダ記念日』 


寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら 
『サラダ記念日』 


「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日 
『サラダ記念日』 


バンザイの姿勢で眠りいる吾子よ そうだバンザイ生まれてバンザイ 
『プーさんの鼻』 


大きければいよいよ豊かなる気分東急ハンズの買物袋
『サラダ記念日』  


「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ 
『オレがマリオ』 


愛することが追いつめることになってゆくバスルームから星が見えるよ 
『チョコレート革命』

 

男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす
『チョコレート革命』


「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの
『サラダ記念日』  


「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ 
『サラダ記念日』 


落ちてきた雨を見上げてそのままの形でふいに、唇が欲し 
『サラダ記念日』 





▼千種創一


煙草いりますか、先輩、まだカロリーメイト食って生きてるんすか 
『砂丘律』 


あっ、ビデオになってた、って君の声の短い動画だ、海の
『砂丘律』


アラビアに雪降らぬゆえただ一語ثلج(サルジュ)と呼ばれる雪も氷も
『砂丘律』



▼千葉聡


フォルテとは遠く離れてゆく友に「またね」と叫ぶくらいの強さ 
『そこにある光と傷と忘れもの』 


「おはよう」に応えて「おう」と言うようになった生徒を「おう君」と呼ぶ
『そこにある光と傷と忘れもの』


海は海 唇噛んでダッシュする少年がいてもいなくても海
『海、悲歌、夏の雫など』


蛇行せよ詩よ詩のための一行よ天国はまだ持ち出し自由
『微熱体』




▼堂園昌彦


僕もあなたもそこにはいない海沿いの町にやわらかな雪が降る 
『やがて秋茄子に到る』 


ロシアなら夢の焚き付けにするような小さな椅子を君が壊した 
『やがて秋茄子に到る』 


ほほえんだあなたの中でたくさんの少女が二段ベッドに眠る 
『やがて秋茄子に到る』 


秋茄子を両手に乗せて光らせてどうして死ぬんだろう僕たちは
『やがて秋茄子に到る』




▼土岐友浩


そのひとは五月生まれで「了解」を「りょ」と略したメールをくれる
『Bootleg』


ヴォリュームをちょうどよくなるまで上げる 草にふる雨音のヴォリューム 
『Bootleg』 




▼鳥居


目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ  
『キリンの子』


慰めに「勉強など」と人は言う その勉強がしたかったのです
『キリンの子』



▼toron*


おふたり様ですかとピースで告げられてピースで返す、世界が好きだ
『イマジナシオン』


会うまでの日をていねいに消してゆく手帳のなかに降りやまぬ雨
『イマジナシオン』



【な】



▼永井祐


1千万円あったらみんな友達にくばるその僕のぼろぼろのカーディガン
『日本の中でたのしく暮らす』


月を見つけて月いいよねと君が言う  ぼくはこっちだからじゃあまたね
『日本の中でたのしく暮らす』


大みそかの渋谷のデニーズの席でずっとさわっている1万円
『日本の中でたのしく暮らす』  


パチンコ屋の上にある月 とおくとおく とおくとおくとおくとおく海鳴り
『日本の中でたのしく暮らす』


元気でねと本気で言ったらその言葉が届いた感じに笑ってくれた 
『日本の中でたのしく暮らす』 


会わなくても元気だったらいいけどな 水たまり雨粒でいそがしい
『日本の中でたのしく暮らす』  


日本の中でたのしく暮らす 道ばたでぐちゃぐちゃの雪に手をさし入れる 
『日本の中でたのしく暮らす』


わたしは別におしゃれではなく写メールで地元を撮ったりして暮らしてる 
『日本の中でたのしく暮らす』


おじさんは西友よりずっと小さくて裏口に自転車をとめている 
『日本の中でたのしく暮らす』 


あの青い電車にもしもぶつかればはね飛ばされたりするんだろうな 
『日本の中でたのしく暮らす』


よれよれにジャケットがなるジャケットでジャケットでしないことをするから
『広い世界と2や8や7』 

「ヤギ ばか」で検索すると崖にいるヤギの画像がたくさん出てくる
『広い世界と2や8や7』



▼中澤系


牛乳のパックの口を開けたもう死んでもいいというくらい完璧に 
『uta 0001.txt』 


3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって 
『uta 0001.txt』 


ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ 
『uta 0001.txt』


かみくだくこと解釈はゆっくりと唾液まみれにされていくんだ 
『uta 0001.txt』 


空くじはないでもたぶん景品は少し多めのティッシュだけだよ 
『uta 0001.txt』 


糖衣がけだった飲み込むべきだった口に含んでいたばっかりに 
『uta 0001.txt』 


小さめにきざんでおいてくれないか口を大きく開ける気はない 
『uta 0001.txt』 




▼永田紅


ああ君が遠いよ月夜 下敷きを挟んだままのノート硬くて 
『日輪』


人はみな慣れぬ齢を生きているユリカモメ飛ぶまるき曇天 
『日輪』 


対岸をつまずきながらゆく君の遠い片手に触りたかった 
『日輪』 





【は】



▼萩原慎一郎


非正規の友よ、負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている 
『滑走路』 


ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる 
『滑走路』 




▼初谷むい


エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜をおもうよ
『花は泡、そこにいたって会いたいよ』


イルカがとぶイルカがおちる何も言ってないのにきみが「ん?」と振り向く
『花は泡、そこにいたって会いたいよ』


死後を見るようでうれしいおやすみとツイートしてからまだ起きている
『花は泡、そこにいたって会いたいよ』



▼服部真里子


野ざらしで吹きっさらしの肺である戦って勝つために生まれた  
『行け広野へと』


春だねと言えば名前を呼ばれたと思った犬が近寄ってくる
『行け広野へと』  


花曇り 両手に鈴を持たされてそのまま困っているような人
『行け広野へと』



▼早坂類


カーテンのすきまから射す光線を手紙かとおもって拾おうとした 
『風の吹く日にベランダにいる』 


かたむいているような気がする国道をしんしんとひとりひとりで歩く 
『風の吹く日にベランダにいる』 




▼東直子


廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て
『春原さんのリコーダー』


ママンあれはぼくの鳥だねママンママンぼくの落とした砂じゃないよね
『青卵』


特急券を落としたのです(お荷物は?)ブリキで焼いたカステイラです
『春原さんのリコーダー』


好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ 
『青卵』


転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー
『春原さんのリコーダー』 




▼平岡直子


三越のライオン見つけられなくて 悲しいだった 悲しいだった 
『みじかい髪も長い髪も炎』 


海沿いできみと花火を待ちながら生き延び方について話した 
『みじかい髪も長い髪も炎』 


すごい雨とすごい風だよ 魂は口にくわえてきみに追いつく 
『みじかい髪も長い髪も炎』 




▼穂村弘


「凍る、燃える、凍る、燃える」と占いの花びら毟る宇宙飛行士 
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』 


呼吸する色の不思議を見ていたら「火よ」と貴方は教えてくれる 
『シンジケート』 


校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け 
『ドライ ドライ アイス』 


ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は
『シンジケート』  


赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、きらきらとラインマーカーまみれの聖書 
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』 


アトミック・ボムの爆心地点にてはだかで石鹸剥いている夜  
『ラインマーカーズ』


恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の死  
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』


ハーブティーにハーブ煮えつつ春の夜の嘘つきはどらえもんのはじまり
『シンジケート』  


ハロー 夜。 ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち。
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』


「十二階かんむり売り場でございます」月のあかりの屋上に出る  
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』


目覚めたら息まっしろで、これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』


夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと。お会いしましょう 
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』  


終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて 
『シンジケート』 


体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 
『シンジケート』 


錆びてゆく廃車の山のミラーたちいっせいに空映せ十月 
『シンジケート』  


サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい 
『シンジケート』   


 




【ま】


▼正岡豊


みずいろのつばさのうらをみせていたむしりとられるとはおもわずに
『四月の魚』


だめだったプランひとつをいまきみが入れた真水のコップに話す  
『四月の魚』


きっときみがぼくのまぶたであったのだ 海岸線に降りだす小雨 
『四月の魚』 




▼枡野浩一


殺したいやつがいるのでしばらくは目標のある人生である
『てのりくじら』  


好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君 
『ますの。』 


こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう 
『てのりくじら』 


手荷物の重みを命綱にして通過電車を見送っている 
『ますの。』

 

だれからも愛されないということの自由気ままを誇りつつ咲け 
『てのりくじら』 


わけもなく家出したくてたまらない 一人暮らしの部屋にいるのに 
『ますの。』 


さよならをあなたの声で聞きたくてあなたと出会う必要がある 
『歌』  




▼松木秀


カップ焼きそばにてお湯を切るときにへこむ流しのかなしきしらべ 
『5メートルほどの果てしなさ』  


偶像の破壊のあとの空洞がたぶん僕らの偶像だろう
『5メートルほどの果てしなさ』  


ああ闇はここにしかないコンビニのペットボトルの棚の隙間に
『5メートルほどの果てしなさ』  




▼松村正直


手を出せば水の出てくる水道に僕らは何を失うだろう
『駅へ』 


「やさしい鮫」と「こわい鮫」とに区別して子の言うやさしい鮫とはイルカ 
『やさしい鮫』 


声だけでいいからパパも遊ぼうと背中に軽く触れて子が言う 
『やさしい鮫』  


忘れ物しても取りには戻らない言い残した言葉も言いに行かない 
『駅へ』 




▼水原紫苑


白鳥はおのれが白き墓ならむ空ゆく群れに生者死者あり 
『うたうら』 


われらかつて魚なりし頃かたらひし藻の蔭に似るゆふぐれ来たる  
『びあんか』


きらきらと冬木伸びゆく夢にして太陽はひとり泪こぼしぬ 
『客人(まらうど)』 


殺してもしづかに堪ふる石たちの中へ中へと赤蜻蛉(あかあきつ) ゆけ 
『びあんか』 


まつぶさに眺めてかなし月こそは全(また)き裸身と思ひいたりぬ
『びあんか』  




▼光森裕樹


六面のうち三面を吾にみせバスは過ぎたり粉雪のなか
『鈴を産むひばり』  


しろがねの洗眼蛇口を全開にして夏の空あらふ少年
『鈴を産むひばり』 


ドアに鍵強くさしこむこの深さ人ならば死に至るふかさか
『鈴を産むひばり』  


あかねさすGoogle Earthに一切の夜なき世界を巡りて飽かず  
『鈴を産むひばり』



▼望月裕二郎


さかみちを全速力でかけおりてうちについたら幕府をひらく 
『あそこ』 


おもうからあるのだそこにわたくしはいないいないばあこれが顔だよ
『あそこ』


われわれわれは(なんにんいるんだ)頭よく生きたいのだがふくらんじゃった
『あそこ』





【や】


▼柳澤真実


遠くから手を振ったんだ笑ったんだ 涙に色がなくてよかった  


SMAPと6Pするより校庭で君と小指でフォークダンスを  




▼山崎聡子


さようならいつかおしっこした花壇さようなら息継ぎをしないクロール 
『手のひらの花火』 


縁日には、おかまの聖子ちゃんが母さんと来ていた、蜻蛉柄の浴衣で
『手のひらの花火』


遮断機の向こうに立って生きてない人の顔して笑ってみせて
『青い舌』



▼山田航


たぶん親の収入超せない僕たちがペットボトルを補充してゆく 
『さよならバグ・チルドレン』 


靴紐を結ぶべく身を屈めれば全ての場所がスタートライン  
『さよならバグ・チルドレン』


鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る  
『さよならバグ・チルドレン』




▼藪内亮輔


傘をさす一瞬ひとはうつむいて雪にあかるき街へ出でゆく
『海蛇と珊瑚』  


枯れたからもう捨てたけど魔王つて名前をつけてゐた花だつた
『海蛇と珊瑚』


雨はふる、降りながら降る 生きながら生きるやりかたを教へてください
『海蛇と珊瑚』




▼雪舟えま


おにぎりをソフトクリームで飲みこんで可能性とはあなたのことだ 
『たんぽるぽる』 


目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき 
『たんぽるぽる』 


逢えばくるうこころ逢わなければくるうこころ愛に友だちはいない 
『たんぽるぽる』 


ホットケーキ持たせて夫送りだすホットケーキは涙が拭ける
『たんぽるぽる』


ふたりだと職務質問されないね危険なつがいかもしれないのに
『たんぽるぽる』




▼吉川宏志   


窓辺にはくちづけのとき外したる眼鏡がありて透ける夏空 
『青蟬』   


画家が絵を手放すように春は暮れ林のなかの坂をのぼりぬ 
『青蟬』 


瓦礫道 そこに死体があるらしくぼかしをよけて兵士は歩む 
『海雨』


花水木の道があれより長くても短くても愛を告げられなかった
『青蟬』    


秋の雲「ふわ」と数えることにする 一ふわ二ふわ三ふわの雲 
『曳舟』 







◆◆◆◆




あとがき


約70人の約300首を紹介しました。

現代短歌、どうですか? おもしろそうですか? 

気になる人がいたら、どんどん本を探したりSNSを探してみるといいですね。

同じ短歌でも、こうして抜き出されたものを読むのと、歌集でまとめて読むのとでは印象が変わります。



最後にわたしの作品も紹介させてください。


▼工藤吉生


膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺
『世界で一番すばらしい俺』


眠るため消した電気だ。悲しみを思い返して泣くためじゃない
『世界で一番すばらしい俺』



ここまでお読みくださりありがとうございました。

それではまたどこかでお会いしましょう。



※これは2019年に作成した記事に手を加えたものです




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