【判例評釈】不当請求事案における弁護士のあるべき対応【交通事故判例速報】

(原 審)神戸地方裁判所 尼崎支部 平成25年3月5日判決(同庁・平成23年(ワ)第1492号)
(控訴審)大阪高等裁判所 平成25年8月27日判決(同庁・平成25年(ネ)第1697号)

以下は、交通春秋社刊【交通事故判例速報】(No.572)に掲載された以下の判例評釈の内容をウェブサイト用に再構成したものです。

駐車場内で発生した極めて軽微な接触事故について債務不存在確認請求が認容され、反訴請求が棄却された事例に見られる諸問題(控訴審での反訴提起と「相手方の同意」、事故直後の弁護士対応の相当性等)

1 事案の概要

事故日時 平成23年11月10日 午後2時15分

発生場所 コンビニエンスストア駐車場内

原告車両 X1(タクシー会社)所有、X2運転のタクシー車両(「X車」)

被告車両 Y1運転、Y2及びY3同乗の普通乗用自動車(「Y車」)

事故態様 駐車場内で低速で後退中であったX車の右後角部が、空き区画待ちのためその後方にて停止中であったY車の左側部にわずかに接触したというもの

2 訴訟提起の経緯とその後の経過

事故発生直後、Yらは現場にて普通に歩き回り、警察官が救急車を呼ぶかを聞いた際にもこれを断っている。ところが、同日のうちにYらはそれまでに通院したことのない伊丹市内の鍼灸整骨院を受診し、同院への通院を開始した。その後、事故の4日後には、Y1はX1に架電し「Yらは、皆、炎症で首の部分が腫れ上がっている。」、「Y2は特にひどく、入浴も出来ない状態である。」等と申し向け、詳しい症状については鍼灸整骨院に確認するよう求めるなどした。そして、鍼灸整骨院においても「Yらには可動域制限が生じている。」といった主張がなされたことから、XらにおいてYらを被告とする債務不存在確認請求訴訟を提起した(なお、同訴訟提起は事故発生から20日後のことであった。)。

なお、原審では、裁判所の指摘にもかかわらずYらはXらに対する反訴提起を行わなかったため、債務不存在確認請求の当否が争われ、平成25年3月5日言い渡しの原審判決にて、Xらの確認請求が認容された。

その後、Yらがこれを不服として控訴すると共に、控訴審において反訴提起を行ったことから、Xらは債務不存在確認の本訴請求を取り下げ、その後、同年8月27日付でまたしてもXらの主張が認められ、Yらの反訴請求を全て棄却する判決の言い渡しがなされた(その後、同判決確定)。

なお、原審での審理中、Y車所有者Z(Y1の実父)からXらに対してY車損傷による損害の賠償を求める訴訟が神戸簡易裁判所に提起されたが、これは平成24年12月3日付で、XらがZに修理費用金10万8000円を支払うとの内容で訴訟上の和解が成立し、その後速やかに上記和解金の支払いも完了している。

3 主要な争点

本件では原審、控訴審で審理の対象となる訴えの内容が異なるため、争点やそれに対する判断も一部異なっている。

(1)原審での争点

①Xらの債務不存在確認請求訴訟の提起に「確認の利益」があるか。

②Yらの損害の有無

(2)控訴審での争点

③Yら(反訴原告ら)の受傷の有無

4 各争点に対する原審裁判所の判断

(1)「確認の利益の有無」(争点①)について

Yらは、本件訴訟の提起は「専ら被害者を困惑させる動機に基づく権利の濫用に当たるものである」と主張した。その上で、債務不存在確認の訴えは訴訟要件たる「確認の利益」を欠き不適法であるとして、その却下を求める本案前の申立を行い、その根拠として以下の事情を挙げている。

・訴訟提起が事故からわずか20日後という短期間のうちになされたものであること

・YらがXらに対し法外な主張をしたり、執拗に内払いを求めたり、過剰な診療を要求したりした事実がないこと

これに対し、原審判決は「XらとYらとの間で、損害の有無について主張に隔たりがあることは明らかであるから、Yらが未だ金銭的請求をしていなかったとしても、確認の利益があるというべきである。」、「(当該事案において)Xらにおいて、Yらが傷害を仮装し、請求する恐れがあると考えるのも無理からぬところであり、事故から3週間での提訴というのはやや尚早の感はあるとしても、直ちに被害者を困惑させるためのものとはみとめられるものではない。」、「債務不存在確認請求を含め、紛争について裁判で解決することを求めるのは国民の権利であることを考慮すれば、Xらの訴えが権利の濫用で許されないものとは認め難い。」と判示し、Yらの主張を排斥した。

(2)「Yらの損害の有無」(争点②)について

原審では、さらに「Yらの損害の有無」が問題とされた。

そして、原審判決ではまず、X車の車載カメラの映像(音声含む。)について「この映像から衝撃の大きさを認定するのは困難である。」とし、またY車の損害が金10万8000円を上回るものでない点についても「本件事故の衝撃が全く傷害を発生させる可能性がないものとは認めることが出来ない。」として、これらの客観的事実だけでは損害発生を否定することはできないとの態度を明らかにしている(もっとも、車載カメラの映像から「比較的低速での事故と推認される。」旨の指摘がなされている。)。

他方、原審判決は、

・本件事故について正規の実況見分調書ではなく、「現場の見分状況書」という簡約調書が作成されているにとどまり、事故直後、現場に臨場した警察官も本件について重大な人身事故になると認識していなかったと推認されること

・警察官がYらに救急車を呼ぶかどうか聞いた際、Yらはこれを断っており、事故直後の時点でYらが強い痛みを訴えていたとは認められないこと

をそれぞれ指摘している。

その上で、Yらが整骨院のみを受診し、整形外科等の医師の診察を一切受けておらず、医師の診断書の提出もなされていないことを問題視し、「整骨院や鍼灸院において診断書を作成し、それが医師の診断書と同程度に評価されているとの認識が定着しているとも認めがたい。」、「本件のように傷害の発生自体が争われている場合に、レントゲン等の客観的な資料もなしに医師の資格のない柔道整復師の判断のみで傷害を認めることは困難である。」と判示した。

そして、Yらの主張する損害(通院交通費、慰謝料、弁護士費用)はいずれもすべて整骨院での治療が本件事故と因果関係があることを前提するものであり、これが否定される本件においては「Yら全員について相当因果関係ある損害は認められない。」と結論づけ、Xらの債務不存在確認請求を認容した。

5 控訴審の判断(「Yらの受傷の有無」(争点③)について)

Xらの債務不存在確認請求を認容した原審判決を不服として、Yらより控訴がなされ、同控訴審において、Xらに対する反訴提起が行われた。

このため、原審で問題となった「確認の利益」の有無は争点から外れ、控訴審においては専ら「Yらの受傷の有無」(争点③)が争点となった。

そして、この点に関し、控訴審判決は、

・比較的狭いコンビニエンスストアの駐車場内の事故で、両車両の衝突の角度も小さく(浅く)、両車両の損傷の程度やX車の車載カメラの映像によれば、「本件事故直前のX車の後退速度は速かったといえず、衝突によるY車の揺れの程度も大きかったとは言えない」から、「Y車が本件事故によって受けた衝撃が大きかったとは認められない」こと

・「衝突時、身体がのけぞるような感じがあり、ヘッドレストに頭ががんと当たる感じがした」というY1の説明は衝突の態様に照らすと物理的にありえず、その受傷状況に関する供述は採用できないこと

・Yらは事故直後、Y車から降り、歩いてコンビニエンスストアに入っており、またY1は事故後も寿司店のアルバイトも休むことはなかったこと

・Yらの症状については、鍼灸整骨院の診断を根拠とするものであり、「レントゲン等の客観的な検査結果等をも踏まえて医師によってされたものではないから、それのみで上記診断のとおり受傷したことを認めることはできない」こと

等を根拠に、「Yらが本件事故によって傷害を負った事実を認めることはできない。」と結論づけた。

6 考察

上記各争点と原審、控訴審の各判断については以下のような指摘が可能である。

(1)債務不存在確認請求における「確認の利益」の有無(争点①)について

原審の判決文には表れていないものの、本件では、Yらがいずれも当初、事故現場では全く痛みを訴えるような態度が見られなかったにもかかわらず、臨場した警察官に対しいきなり「首が痛いねん。」、「痛い。痛い。」等と訴え出し、車両同士の接触の程度についても客観的状況に合わないかなり誇張した説明を行いだしたこと、事故の数日後にはYらが平仄を合わせるように「頚部の著しい腫脹と炎症のため動かすこともできなくなった」などと主張し出していること等の事情がある。そして、この点が「Xらにおいて、Yらが傷害を仮装し、請求する恐れがあると考えるのも無理からぬところ」との原審判決の言い回しに繋がっている。

なお、債務不存在確認の訴えにおいてこのような形で「確認の利益」の有無が争われるケースはさほど多くはないが、「(双方で)損害の有無について主張に隔たりがあること」を根拠に、未だ相手方から金銭的請求がない場合にも確認の利益が認められるとしている点で、原判決の判断は大いに意義があるものと考えられる(但し、「事故から3週間での提訴というのはやや尚早の感はある」との指摘については、裁判所の意図・趣旨は必ずしも明確ではない。)。

(2)Yらの「損害の有無」(争点②)ないし「受傷の有無」(争点③)について

前記の通り、原審判決は「Yらの損害の有無」(争点②)を問題としたのに対し、控訴審判決ではさらに踏み込んで「Yらの受傷の有無」(争点③)自体を論じている。

このため、結論の前提となる事実認定も控訴審判決の方がより詳細かつ具体的である。

もっとも、原審判決、控訴審判決は、「受傷の事実自体に争いがある事案において、柔道整復師の判断のみで傷害を認めることは困難である」との姿勢がうかがわれる点で共通している。

この点、柔道整復師の判断はレントゲンやMRIといった身体の器質的損傷の有無を明らかにする客観的な資料に基づくものではないため、受傷者の主観的な訴えに基づいて判断や施術がなされるというおそれが否定できず、いずれの判決もこの点を重視したものということができる。

本件は、Yら3名が受傷した旨主張しながら、警察官による救急車の手配をあえて断り、かつ鍼灸整骨院にしか通院していないというやや特殊な事案ではあるが、いわゆる受傷疑義案件の処理、受傷主張の相当性判断に関し、一定の方向性を示す、先例的意義のある判決であると考えられる。

7 その他の事情に関して

なお、前記した点のほか、本件事案では以下のような事情があり、この点も若干の先例的価値があろうかと思われるため、補足する。

(1)控訴審での反訴と相手方の同意について

本件では、原審において、裁判所よりYらに対して反訴提起を行うよう求めていたにも関わらず、Yらはこれに応じず、「XらがYら主張の損害額を支払うこと」を条件とする和解を提案するのみであった(なお、Yらの言い分は「支払後、Xらにおいて自賠責保険に加害者請求を行うことで回収できるはずである。」というものであったが、そもそも受傷疑義案件であることからXらはこれを拒否している。)。

その後、敗訴判決を受けたYらが控訴すると共に反訴提起を行った。

なお、原審の審理では、Yらはそれぞれ別個の損害が発生しているにもかかわらず、Y1の本人尋問のみを申請するに止まっていた。

この点、控訴審での反訴の提起は「相手方の同意」が必要とされるところ(民事訴訟法300条1項)、控訴審において上記反訴提起がなされることにより徒に訴訟を遅延させる恐れがあるとしてXらは当初、これに同意しない旨答弁した。

もっとも、控訴審裁判所としては、「相手方の同意」がない場合でも、実質的に相手方の「審級の利益」を害しない場合には反訴提起が許容されるとの見解であった。

この点、控訴審での「相手方の同意」なき反訴提起について、裁判例は、不適法として却下すべきとするもの(大阪高等裁判所昭和56年9月24日判決・判例タイムズ455号109頁等)、反訴を別訴として有効に取扱い管轄第一審裁判所へ移送すべきとするもの(東京高等裁判所昭和46年6月8日判決・判例タイムズ267号331頁等)に分かれるが、他方で、相手方の審級の利益を害しない限り控訴審での反訴提起について「相手方の同意」を要しないとするのが裁判所の一貫した考え方である(東京高等裁判所昭和59年2月29日判決・判例タイムズ526号146頁等)。

とりわけ、本件のような交通事故を原因とする債務不存在確認請求訴訟提起に端を発する事案においては、本訴請求(債務不存在確認請求)と反訴請求(損害賠償請求)で審理の対象や争点、攻撃防御方法、証拠関係が共通するのが通常であるため、一審被告が控訴審で反訴提起を行っても一審原告の審級の利益を奪うものではない。このため、控訴審で反訴提起があった場合、一審原告の同意が無くとも一審被告による反訴提起を適法として扱い、他方、一審原告の債務不存在確認請求(本訴請求)は不適法却下すべきであるとした裁判例がある(大阪高等裁判所平成18年9月28日判決・交民集39巻5号1227頁)。

本件事案における大阪高裁の対応も、上記のような裁判例の考え方に沿ったものといえる(なお、本件事案においては、裁判所との協議の結果、XらがYらの反訴提起に同意し、債務不存在確認の本訴請求を取り下げることとした。)。

(2)Xら代理人等に対するYらの懲戒請求について

なお、本件事案においては、YらそれぞれよりXら代理人(担当弁護士B1)と同弁護士が所属する弁護士法人(B2)に対する合計6件もの懲戒請求が申し立てられている。

①懲戒請求の理由について

これらの懲戒請求においてその理由としてYらが主張した事実は以下の通りであった。

ア YらがXらに対して不当な請求や不穏な発言をしていない段階で、Bらが「本件事故による受傷を前提とした請求には一切応じられない」旨の内容証明郵便を送付し、債務不存在確認請求訴訟を提起したことが、弁護士法第56条第1項に違反し、弁護士としての品位を失うべき非行にあたる。

イ Bらが内容証明郵便や訴状で記載した事実が虚偽であることが、弁護士法第56条第1項に違反し、弁護士としての品位を失うべき非行にあたる。

ウ Bらが自賠責調査事務所(損害保険料率算出機構)に対し「債務不存在請求訴訟が係属中である」と回答し、被害者請求に基づくYらの保険金請求を妨害したことが、弁護士法第56条第1項に違反し、弁護士としての品位を失うべき非行にあたる。

② 綱紀委員会の判断

これに対し、同請求を受けた綱紀委員会は、大要以下の通りの判断を示し、Bらに対するいずれの請求についても理由なしとして「懲戒しない」ものとした(なお、この綱紀委員会の判断自体は、債務不存在確認請求を認容する原審判決後になされたものである。)。

ア 懲戒請求理由アについて

事故後のYらの対応が事故直後から徐々に大げさなものになっており、かつ本件事故による受傷に関し、医師による診断を受けることなく、整骨院に通院していることで、Xらは、Yらから事故による受傷を前提とした過大な金銭請求がなされるのではないかとの懸念を示し、そのことに対する対処をB1に委任している。

以上に照らせば、B1がYらに内容証明郵便を送付し、その後、債務不存在確認請求訴訟を提起したことは、弁護士の対応として、格別不適切なところは認められない。

Yらは未だ何の請求もしていない段階で、加害者が被害者に対して内容証明郵便を送付し、債務不存在確認請求訴訟を提起すること自体を問題としているが、XらがB1に説明した事実に基づく限り、Yらに対する早期の対応はむしろ依頼者(Xら)の求めるところに合致するものと言えるのであって、内容証明郵便の送付や債務不存在確認請求訴訟の提起が早期に過ぎると判断することは出来ない。

イ 懲戒請求理由イについて

Yらが「虚偽である」と主張する内容証明郵便や訴状の記載内容は、加害者(Xら)側の認識に基づく根拠が示されており、内容証明郵便や訴訟における主張として許される範囲の主張であると認められる。

これらの主張事実が虚偽であるかどうかについては、Yらにおいても訴訟で十分争う機会があり、そのような主張が行われた事実自体を現時点(懲戒請求がなされた時点)において懲戒事由として考慮することは出来ないものと考えられる。

ちなみに、原審判決ではXらの債務不存在確認請求が認容されており、このことからも、B1による内容証明郵便及び訴状での記載事項が虚偽であることを前提にした懲戒請求には理由がない。

ウ 懲戒請求理由ウについて

損害保険料率算出機構からの照会に対する回答はX1によってなされたものであり、Bらが関与したものではないため、その回答内容をBらに対する懲戒事由とすることは出来ない。

また、債務不存在確認請求訴訟の提起自体が懲戒事由に該当しない以上、その事実をX1が回答したこと自体も問題が無い。

エ B2について

なお、B2(弁護士法人)については、その名においてYらへの対応は行っておらず、Yらの懲戒請求には理由がない。

オ 結論

以上の通り、Bらには、品位を失うべき非行があったとは認められない。

③ 考察

本件での懲戒請求はいずれもYらの代理人名ではなく、Yら個人の名前で申し立てられている(但し、その懲戒請求申立書はYら3名による合計6件の申立いずれについても書式、記載内容がほぼ共通するなど同一人が作成したものであることが強くうかがわれたほか、その主張の内容も訴訟におけるYらの主張を反映したものであった。)。

そして、これらの懲戒請求に対して、申立を受けた綱紀委員会では(原審裁判所の判決による判断を待つ形ではあったものの)いずれも請求に理由がないとの判断がなされている。

この点、前記イ及びウの点を懲戒請求の理由に挙げている点、また行為に関与していない弁護士法人B2をも対象弁護士としている点はそもそも論外である。

他方、懲戒請求理由アについても、B1が受任した時点での依頼者(Xら)からの相談、事情聴取の結果、「Yらが今後、本件事故による受傷について、過大な請求をしてくるのではないかとの懸念を抱くのも当然な事情が存する」と判断したこと、その対処としてB1が内容証明郵便の送付や債務不存在確認請求訴訟提起を行ったことは、「弁護士の対応として、格別不適切なところは認められない。」と結論づけている。

この点は、本件事件における原審判決、控訴審判決の判断と異なり、あくまでもB1による内容証明郵便送付ないし債務不存在確認請求訴訟提起の時点における弁護士業務の相当性に関する判断であり、事故直後から同時点まで短期間のYらの言動のみを根拠にB1の業務処理の相当性を認めている点が重要である。

そして、先に見た本件事件の争点①(確認の利益の有無)における原審判決の判断と同様、早晩Yらより事故を理由とする過大な要求がなされることが懸念される状況にあった以上、「Yらが未だXらに対して金銭的な要求を行っていなかったこと」自体は、懲戒の根拠とはならないものとされた。

一般に、受傷の事実や治療期間・治療内容の相当性が争われるべき事案においても、治療や通院継続が「既成事実」化した場合、後の訴訟において加害者側に不利な事情として扱われがちである。また、時として裁判所自体もそのような「既成事実」を加害者が損害の発生を認容していたことの事情と捉えるケースが少なくない。

このため、本件のような受傷の事実自体に疑義のある軽微事故においては、加害者側としては早期に自己の立場を明らかにしておく必要があり、今般の懲戒請求に対する綱紀委員会の判断は極めて常識的且つ合理的なものといえる。

客観的に見て正当な処理として行われた弁護士業務に対し、相手方より濫用的な懲戒請求がなされるというケースが稀にあり、本件もそのような側面が否定しがたい。そして、本件のように、相手方の受傷の事実自体に疑義がある事案における加害者側弁護士としての対応の適否に関し、本件懲戒請求に対する綱紀委員会の判断は一定の指標を示すものといえる。

以上

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