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健康志向ではなく、「究極の嗜好品」としてノンアル飲料を捉えてみる

美味しいお酒を飲んでいるとき、つねにジレンマとして目の前に立ちはだかってくるのが、「酔っ払ってきて味がよくわからなくなってくる」問題だ。

正直、ある一定のラインを超えると、大衆居酒屋のやたらと濃いハイボールも、こだわりのシングルモルトウィスキーのソーダ割りも、大して味の区別がつかなくなる。

もちろん、そのある種のトリップ感覚は、お酒がもたらしてくれる大きな快楽の一つだ。味がよくわからなくなるほど酩酊することを否定する気は一切ないし、むしろ個人的には、そうしてネジを緩める時間も好きだ。

ただ、そのとき「お酒を楽しむ」という営みの内実が、純粋に味や香りの快楽を求めるゲームではない、別のゲームに切り替わっていることは確かだろう


(※)本ブログは、株式会社PLANETSが発行する雑誌『モノノメ 創刊号』について、そのいち編集部員である僕が、個人的な所感を綴ったものです。このブログを通じて、より多くの方に『モノノメ 創刊号』を手に取ってもらい、既に購入いただいた方にはより多角的に雑誌を読む一助としてもらいたいという目的で書いています。

お酒を楽しむという行為は、(いったんペアリングや食事のことは脇に置いたとしても)お酒そのものが持っている味や香りを楽しむゲームに、アルコールがもたらす興奮作用や酩酊作用をかけ合わせたゲームだといえる。

同じようにお茶やコーヒーは、飲み物そのものの味や香りに、カフェインのもたらす覚醒作用や鎮静作用をかけ合わせたゲームだといえるかもしれない。

一方で、興奮や酩酊、覚醒や鎮静といった化学的作用の影響が少ない、限りなく味と香りの快楽だけに向き合ったゲームも、世の中にはある


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PLANETSの新雑誌『モノノメ 創刊号』に収録されている、[インタビュー]古谷知華「『飲むこと』はもっと拡張できる──ノンアルコール・ドリンクを探訪する」という記事では、ノンアルコールだからこそ辿りつける、究極の味と香りの可能性について議論がなされている(僕が聞き手・構成を担当しています)。元祖クラフトコーラ「ともコーラ」やノンアルコール専門ブランド「のん」、日本全国に眠る”美味しい植生たち”について蒐集、記録、発表をする研究ブランド「日本草木研究所」などを手がける、フードプロデューサーの古谷さんと、飲食文化をもっと面白くするためにはどうすればいいのかをディスカッションした。

──お茶でもコーヒーでもない、いわゆるノンアルコール飲料は、味や香りそのものが最も直接的に問われる飲み物だと思うんです。アルコールのような酩酊作用はないし、お茶やコーヒーのような興奮作用や鎮静作用も相対的に弱い。でも、だからこそ味や香りそのもので体験を作っていくことが、一番ダイレクトに要求される。その面白さというのが、絶対にあると思うんです。(中略)

古谷 たしかに! そういう意味では、お酒のように「酔わせる」という機能がない、究極の嗜好品なのだと思います。

ノンアルコール飲料というと、健康志向の飲み物として捉えられることも多いかもしれない。しかし、そうではないのだと。味と香りだけで勝負する「究極の嗜好品」としてノンアルコール飲料を捉えることで、ノンアルへのイメージが一気に変わる、そんな価値転倒が引き起こされた取材だった。


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