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無意味な時間ばかりでも、意味を求めてばかりでもしんどい

「意味」のないことを続けるのはしんどい。

かつて村上春樹は、誰でもできて、誰もやりたがらないけれど、誰かがやらなければいけない仕事に「文化的雪かき」という秀逸な名前をつけたが、それでも「誰かがやらなければいけない」という意義があるだけマシ。

僕の場合、いまは幸いご縁に恵まれて意義を感じられる仕事をさせてもらっているけれど、昔は「こんなものを世に出す意味があるのだろうか」としか思えない仕事に携わることもあって、とても苦痛だった。

学生時代のアルバイトでも、割はいいものの、やりがいも誰かの役に立っている感覚も皆無なアルバイトをしている時間は、本当に魂を売ってお金に替えているような感覚だった。


(※)本ブログは、株式会社PLANETSが発行する雑誌『モノノメ 創刊号』について、そのいち編集部員である僕が、個人的な所感を綴ったものです。このブログを通じて、より多くの方に『モノノメ 創刊号』を手に取ってもらい、既に購入いただいた方にはより多角的に雑誌を読む一助としてもらいたいという目的で書いています。

他方、人生の中のあらゆる時間・行為に「意味」を求めてしまうと、それはそれで苦しくなる。

一時期、仕事外の時間や休日もすべてをGoogleカレンダーで予定を立ててみたことがあった。好きな本を読む時間も、映画を観に行く時間も、すべてを「タスク」化する。すぐに苦しくなってやめた。あらゆる時間がGoogleカレンダーの予定を消化すること、「いい休日を送る」という目的達成のための手段のように感じらられて、まったく気が休まらなかった。

ソーシャルグッドやウェルビーイングはとても大事だし、そこに対して冷笑的な立場を取りたくはない。しかし、たまにはソーシャルバッドで不健康な時間を過ごしたくなることもある。

完全な無意味が生活のすべてを支配すると苦しくなるし、かといって意味ばかりに囚われてもしんどくなる。人間とはそんな気難しい生き物だ。


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PLANETSの新雑誌『モノノメ 創刊号』に収録されている、[連載]「絵本のはなしはながくなる #1 川上弘美」では、そんな生きづらさを少し楽にしてくれる、「無意味で無教訓」な絵本が紹介されている。毎回ひとり、「このひと」というひとを選んで、好きな絵本についてたっぷり話してもらう連載の初回で。登場するのは作家の川上弘美さん。選んだのはオランダの作家ハリエット・ヴァン・レークの『レナレナ』と、スウェーデンの作家ヨックム・ノードストリュームの「セーラーとペッカ」シリーズから第一作の『セーラーとペッカ、町へいく』。

ひたすら、無意味で無教訓。「レナレナ」っていう不思議な、何歳かもわからない女の子の少し変わった日常がただたんたんと描かれているんです。レナレナは人とあまり接しないし、自分の好きなことだけ追求している。これを読んで「ああ、自分は『母親』であるよりも前に、本来こういうものだったはずだよな」って思い出して、すごくほっとしたんです。(p283)

意味ばかり求められる、求めてしまう日常を過ごしているからこそ、そこから一歩距離を取れる時間は貴重で、安息をもたらしてくれる。久しぶりに絵本を手にとってみたくなる記事。


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