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9月3日「山小屋生活2日目」

晴れた9月の初め、山に囲まれた大好きな場所にいた。薄い長袖の服を着てきて正解だった。少し暖かい風が吹いていて、しかしそれはさらっと乾いて柔らかく、どうしようもなく心地がいい。レポートが終わらなくても、就活に悩んでも、空が晴れていれば私はとりあえず、まだご機嫌になれる。

そこら一体の空気に含まれる、緑色の匂いを愛おしく思う。穏やかな日の、色んなものが混ざり合った草木の匂い。私は小さい頃からずっと、それを知っていたはずなのに気づくことができなかった。当たり前すぎて、気にとめることさえなかった。

あたりにぐるっとそびえる山は、陽に照らされて大きな影を落としている。風に揺られてかすかに音を立てる。それはとても立体的なのに、なぜか一枚の絵のようにも見えてくるから不思議だ。空の青と木々の緑がはっきりと分かれていて、自然的じゃないような印象を与える。

きっともうすぐ、一面赤と黄色に変わる。それはそれは鮮やかで、肌寒さを忘れてうっとりとしてしまうくらい。しかし色を変えることは、その葉にとって死を迎えたことを意味する。山が冬を越すために。

そしてやがて地に落ち、土に還り、その次の、またその次の養分になる。くるくる回って、命を繋いでいる。続いていくそのサイクルはきっと、その短い季節よりもずっと美しいことなんだと思う。

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