22歳になんか、なりたくなかった。
1.
窓に映る名前も知らない町と、いまどこにいるのかさえわからない自分。
新幹線に乗って東京にいくのは、これが2回目。
東京は、大きいようにみえて底が浅い。
今住んでる京都や、その前に住んでいたロンドン(正確にはロンドン郊外)と比べると一目瞭然だなと思う。
新しく入れるキャパシティなんて、もう残ってないのに
拒むことができなくて全てを受け入れてしまう。
そしてどんどん、生活や時間や気持ちが飽和してしまって溢れてしまって
その中で上手に泳げない人や息継ぎできない人は、押し出されてしまう。それを助ける余裕も引き止める力ももう残っていない。
私はこれから、どこにいくんだろう。
新幹線の目的地は決まっている。切符もちゃんと買った。会いたい人に、会う約束もした。それでも私の気持ちは今も京都の小さな部屋にいて、どこへもいけない気がする。
2.
先日、岡山へ行った。
江戸時代から続く、商人の町。ものづくりで栄えた、雨が似合うしっとりとした町。
美しい人々に出会った。
海のように穏やかで、晴れの国にふさわしい明るい人たち。
ああ、会えてよかったなと思った。予定していなかったことが起こるのは、たまに居心地が悪くて、でも最終的にいつも私を幸せにする。
一緒にお酒を飲んだあと、部屋に戻り床についた。薄いドアの外から聞こえてくる彼らの静かな足音や、おやすみを言い合う声が心地よかった。そこにいることを許されている気がした。
次の日、フェリーに乗った。
初めて見る瀬戸内海は緑色だった。太平洋は青いのに。
一緒にいたお姉さんが「緑色だね。空の色のせい?」と言った。
私はそれをきいて「そうかもしれないですね」とだけ返したけど、昨日初めて会った彼女と同じように感じていることがとても嬉しかった。
誰かと一緒にいる時間の中で、同じものを見て同じ音を聴いて同じように感じることを、とても貴重なことだと思う。
逆に、違う感覚を持つ人とはもっと言葉を交わしたいと思う。その人を(もちろん人にもよるけど)わかりたいと思うし、お互いを紐解いていくことは世界を広げることだと思う。
デッキから眺める海。小さな波がたくさん現れて消えていく様子は、逆立ったビロード生地を優しく手で撫でていくように見えた。
それをさざなみと呼ぶことを知った。水が連なると書いて、漣。
きっとこんな風に思うのは、世界で私だけなんじゃないかと思う。
私はその感性を持っていることを誇りに思うし、でも誰かに共感してほしいとも思わない。押し付けようとも思わない。
ただ私の中で存在してくれているだけでいい。それを私が大切にしてやればいい。
どこへ行っても大丈夫な気がした。
3.
雨の中、渋谷駅を歩く。
Google Mapは「南口」をさしているけど、一向に見つけられない。
夜、昔好きだった男の子と会う約束をしていた。
何を着て行こうか、悩むくらいには楽しみだった。付き合っていたときより、少し痩せたし髪もばっさり切った。ショートのほうが似合うよと、彼じゃないいろんな人に言われた。
今の自分が好きだと思った、彼と付き合っていた時よりも。
わたしは変わったよ、あの頃の何もできない馬鹿な女の子じゃないよ。
結局彼は「ごめん、今日行けなくなった。」と言った。
急な打ち合わせが入ったらしいよと、お店を予約してくれた別の友達から連絡がきた。
付き合っていた当時、私たちはお互いに学生だった。曜日も時間も関係なかった。打ち合わせなんて、なかった。
「時の流れをかんじるね〜!」なんていつものテンションで連絡してくれた友達に返しつつ、本当は大声で泣き散らしたかった。
悲しかった。彼と私がまったく違う場所で生きていること。彼がずっとずっと私の先にいること。共有しているものは過去だけで
それは私たちを繋ぎ止めるものではないのだということ。あんなに好きだったのに、もう好きではないこと。私も彼も変わってしまったこと。
変化を誇ったり、嘆いたり。コロコロ感情は変わって本当にどうしようもない。そしてわたしはまだそれを上手にコントロールできない。
彼はもう、渋谷駅を地図も見ずに歩けるようになったんだろう。
わたしは、できない。ずっとずっと、どこへ行けばいいかわからないままだ。
4.
正直に言うと、これは全部22歳のせいだと思っている。
どこにもいけない錯覚も、どこへいっても大丈夫と思う気持ちも、どこへ行けばいいかわからない事実も
きっと全部、「どこかへ行かなければならない」と思っているから。そしてそれは、今の場所にはもうあと少ししかいられないから。
どこかへ行く時、もしくは行きたい時、人はいろんな種類の痛みを少しずつ抱えていると思う。私もきっと、今そんな感じ。
どこへ行くか、自分で舵をとれる人になりたい。
でも同時に、ならなきゃいけないプレッシャーに押しつぶされそうだ。
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