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大切なのは「どれだけ人に寄り添えるか」〜NBAスター選手の京都案内から〜

こんにちは。英語全国通訳案内士・茶道裏千家準教授 マインドフルネスジャーニーズジャパン代表の服部花奈です。

今日は「人に徹底的に寄り添う」ということについて、以前NBAスター選手の京都案内をさせていただいた時のお話を具体的に挙げながら書かせていただきたいと思います。

これは2つ前に書いた「自我」に関する記事とも深くリンクしてくるのですが、同じようなことを表現を変えて繰り返し書くのは、本当に、本当に、これが大切だからです。通訳案内現場でも、大切な人とのコミュニケーションにおいても。


NBAスター選手が来日

ある年の夏のある日、旅行会社から連絡がありました。「VIPが2週間後に来日されるのですが、京都案内を三日間お願いできませんでしょうか」とのことでしたが、プライベートの予定が入っており、残念ながらお断りしました。でも来日まであと10日というタイミングで再度連絡があり、「Kanaさんにどうしてもお願いしたいのですが、どうしても無理でしょうか、お客様のご要望からKanaさんが一番適任なんです」という有り難いお言葉を頂いたので、プライベートの予定はリスケしてもらってこちらのお仕事をさせていただきました。

仕事を引き受けたらそのVIPが誰なのか情報が入ってくるわけですが、NBAバスケットボールに全く詳しくないので、選手の名前を言われても全くわからない。でもバスケに詳しいお友達いわく、マイケルジョーダン並みのスター選手だそう。会社が言っていた「お客様のご要望(というか全スケジュールを手配している個人秘書さんからの要望)」とは、ご本人のペースに100%合わせてご要望を叶えていく必要があるので、そういう機転と柔軟性が非常に大切とのことでした。

NBA選手、まずは東京に、そして京都へ

今回の来日は仕事でもなんでもなく、選手本人+ガールフレンド+SNS発信担当者+友達のプライベート旅行でしたが、プライベート旅行密着取材の撮影クルーがいるとのことで、完全プライベートでもなく、日本を純粋に楽しみたいご本人達と、撮れ高を上げるのに必死な撮影クルーとの間で、色々調整しつつ、あくまで選手のプライベートな時間を大切にしてあげるのも私の仕事でした。完全フリーな行程でもなくて、撮影クルーが手配した特別な体験のアポなどもいくつかあり、その合間を縫って彼の希望を実現していきます。

まずは東京にご到着なさり、東京のガイドさんが3日間ご案内。引き継ぎのためのお電話で、ご本人及びその他の皆様のご様子を確認。次は京都で私がお出迎え。

ご案内させていただく際に大切なのは「無我」に「お客様に寄り添うこと」だと思っています。今回のように柔軟性と機転を重視する声がある場合は特に、です。私個人がお伝えしたいこと、見せたいことは、もちろんあるけれど、お客様が求めていないタイミングでプレゼンしても心に届かない。自己満足でプレゼンしても、メッセージが届かなければ意味がない。お客様との会話の中から、どんなことに反応が良いのか探っていきます。そしてお客様のペースに完全に合わせること。撮影クルーが手配したアポの時間と、選手のやりたいこと及び進めたいスピードの狭間で、決して表立って急かすことはせず、時間の帳尻合わせを影でしながら、お客様には思い切り楽しんでいただきました。

選手が興味があったのは、神道と仏教の哲学だった

戦い続けるアスリートとして、精神を支える哲学的なことやスピリチュアルなことに興味があるようで、神道と仏教の哲学については非常に食いつきが良く、詳しくお話をしました。また彼の信頼するスピリチュアルな人から「京都に行ったら鞍馬に行くといい」と言われたそうで、クルーが手配したアポの前に早朝から鞍馬ウオークをねじ込み、選手はいきいきと、楽しそうに、走り回ったり、思い切り深呼吸したり、時には少年のようにはしゃいでいました。

本当は次のアポとの時間の兼ね合いでかなりギリギリの時間になっていましたが、彼がここまで楽しそうに喜んでいるのだから、最大限楽しませてあげたい。時間の調整は影でいろいろ(内心若干ヒヤヒヤしながら、笑)しながら、表立っては急かさず、楽しんでいただきました。鞍馬での表情は、東京からの新幹線から降りた時に見せた疲れた顔とは全然違っていました。彼が日本に引き寄せられたのは、大都会東京のシティライフではなくて、きっと京都の持つ日本らしい自然と文化と精神性なんじゃないかなと思いました。

さて、VIPあるあるで、予定はどんどん変わっていきます。彼らにホテルやハイヤーのキャンセル料とかは問題ではないんですよね。本当は京都二泊三日の予定でしたが京都が気に入りすぎて、次の予定をキャンセルして京都滞在を三日延長。同時に私もスケジュールを空けることを求められました。追加の日程のうち、この仕事をいただいている旅行会社からの先約の仕事は社内で他のガイドさんに振り分けていただきましたが、フリーランスなので他社の仕事も1日入っており、他社に迷惑かけることはできないので、その一日だけは他のガイドさんにこの選手の案内をしていただくことに。

「Kanaはどこだ。このガイドは嫌だ、Kanaがいい。」

選手たち御一行様との最後の日。この日は観光はなくて、ホテルチェックアウト後に新幹線までお見送りするだけ。ホテルロビーでお待ちしていると、選手のガールフレンドとお友達がいらっしゃいました。昨日も楽しかったですかと聞くと、「昨日はKanaがいないから大変だったのよ。」と。え、何があったのですかと聞くと詳細はこうでした:

その日は伏見稲荷大社をメインに京都観光する予定だったそうです。鞍馬山も楽しまれたし、日本の自然と信仰が融合した場所がお好きとお見受けしましたので、本来ならとても楽しまれる予定だったと思います。でも、その日のガイドさんは、選手に寄り添わなかった。彼のペースに、彼の興味に、彼の心が傾くタイミングに、心を寄せて案内するのではなく、彼女の話したいことを、彼女のペースで話し続けた。お客様の様子に心を配ることなく、教壇に立って生徒に講義をする様な一方的なガイディングをした。結果、選手は「Where is Kana?  I don't want this lady, I want Kana.(Kanaはどこだ?このガイドは嫌だ、Kanaがいい)」と言ってツアーを離れてしまったそうです。そして駐車場で待機するハイヤーはガールフレンド達に残して、彼は一人で伏見稲荷からホテルまで、京都の暑い夏空の下、徒歩1時間で帰ってきたそうです。

私はこれを聞いた時、悲しくて悲しくてしょうがありませんでした。彼は、神道や仏教に深い興味を持っている。本来ならば伏見稲荷大社や稲荷山でも、たくさん学びたかったことがあったはず。日本の信仰や、宗教哲学や、価値観など、様々なことを興味深く聞いてくださったはず。なのに、その彼の純粋な好奇心を、ガイドの「我心」が摘み取ってしまい、夏の暑い京都を、手配したハイヤーにも乗らず、ガイドが付き添うこともなく、日本について新たに学ぶこともなく、選手が一人でホテルに歩いて帰らなければならなかったという事実が、悲しくてしょうがありませんでした。

寄り添わなければ、何も見えてこない

特に通訳案内の現場では、自我を取り払い、無我の心でお客様に寄り添いながら案内することが大切だと常々思っていますが、これはどんな場面でも同じだと思います。

マーケティングは、消費者の心理に寄り添わないと良い戦略が生まれない。想いを寄せる相手は、「自分が相手と何をしたいか」ではなくて「相手が何をしたら喜んでくれるか」を考えて行動しなければ、相手の心を動かすことはできない。仕事でも、プライベートでも、自分が大切にしたいはずの相手が、自分の我心によって置き去りになっていたら、何の意味もない。

2つ前の記事と主旨は同じになってしまいましたが、具体的にNBA選手の例を挙げて再度ここに書いたのは、本当に、これが大切だと思うからです。仕事でも、愛する人との関係でも。

以上、長くなりましたが読んでいただきありがとうございました。

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