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「作品がお嫁入りする」は「作品が売れる」と訳して良いか:通訳案内士の通訳について

こんにちは。英語全国通訳案内士 茶道裏千家 準教授 マインドフルネスジャーニーズジャパンの服部花奈です。

本日、とあるご質問をいただき、通訳案内業について考えるところがあったので
ここに書いてみたいと思います。

「ここは不要だと思ったので訳しませんでした」って(汗)

本日いただいたご質問はこんなものでした。
ご質問者様は、外国人向けの文化体験を提供したいと考えていらっしゃる方です。

以前勤めていた時に、外国人観光客の方またプロの方を対象に、和食やお寿司をレッスンしたことがあります。
その際、通訳さんが全部訳して下さっていない雰囲気を感じたので、そのことをお尋ねしたら、「ここは不要だと思ったので訳しませんでした」とおっしゃっていました。
通訳さんとの事前の打ち合わせもなしにいきなりレッスンが始まる場合もあり、必ず伝えて欲しい内容の擦り合わせができてないことも原因だったのかと思います。通訳されている時に、100%訳すのではなく、ここはこのお客様に必要な情報ではないと判断されたところは、訳さない場合もあったりしますでしょうか?


私はお客様を
「え、あの人明らかに何か話しているのに、全然訳されてないんだけど」
と不安にさせたくないので

聞き手を不安にさせないためにも
話し手を不安にさせないためにも

通訳する時は
大事な説明も
ちょっとしたコメントや
おもしろつぶやきも
全部訳しています。

どちらの言語もわかる通訳者は全部話がわかっているからいいけれど
相手の言語がわからない人にとっては
少しでも訳されていないと
「置いてきぼり感」が出てしまうと思いませんか。

全部ちゃんと訳さずに
その場にいる皆さんに会話を共有せず
通訳が一人だけで消化するのは違うと思いますし

置いてきぼりにさせる時点で
話し手・聞き手双方に対する
思いやりがない気がします。

しかも、通訳はあくまで通訳であって
その場のメインの話し手ではありません。

メインスピーカーが伝えたいメッセージを
通訳が勝手に判断して取捨選択して部分的に伝えるって
結構衝撃的です。笑

もちろん私も、勝手に「付け加える」はあります。
それは、
今この言葉を文字通りそのまま訳したら、
聞き手の文化の土壌が違うから
話し手の真意が伝わらないので補足説明する

という意図です。

こういう付け足しは
会議通訳の方とかはしないかと思いますが
私は通訳案内士として
文化的文脈をきちんと繋いで
文化的ギャップをちゃんと埋めて

目の前にいる人と人を繋いでいくことが大切な役目なので
あくまで話し手の言葉が
聞き手に伝わるかを最優先
します。
なので文化的文脈上必要と思われる付け足しをすることはありますが
私の勝手な判断で訳すのを省略する、ということは絶対にしません。

「作品がお嫁入りする」は「作品が売れる」と訳していいのか


話し手の言葉を全部そのまま訳すというお話で
思い出したのですが

私が大好きなやきものの巨匠の先生が京都にいらっしゃって
(記事のカバー写真も先生の茶盌です)
何度かお客様を先生の自宅兼工房へお連れして
先生とお客様の間の通訳をしてきましたが

先生は「職人」ではなくて「作家」なので
同じものを大量生産するのではなく
100個焼いて、納得のいくものが1個出来ればいい、
時には100個焼いた全てを廃棄して
また次に取り組む
だから世の中に顔見せされる作品は
焼いたものの1%あるかないか
というレベルで
一つの作品に全身全霊で取り組んでいらっしゃいます。

そんな先生の作品は
京都迎賓館、伊勢神宮などに収蔵され
天皇陛下にお目にかかったこともあられ
そして世界の数々の著名な美術館に作品が収蔵されています。

先生は
私がお連れしたお客様が実際に手に取ってみることができる作品が
ご自宅には基本的にはないことを説明するときに
「人によっては自分の傑作は非売品にして手元に置いとく人もおるけどな
僕なんかは
やいたん手元に置いといてもしゃあないから
全部ご縁があったところにお嫁入りさせてしまうんや」とおっしゃいます。

これを簡単に意訳して
「購入希望する人に売ってしまう」とか
「欲しいという人に買ってもらう」という意味で
英語に訳してしまっては
先生の想いが全然伝わらない
と思うのです。

先生の作品は
大量生産しているものを
不特定多数の人が買うのとは全然違う。

100個焼いて1個できるかできないかの
一つ生み出すのにものすごいエネルギーと情熱をかけて
ようやく生み出した
大切な大切な作品。

可愛い娘を嫁に出す父親のような気持ちがあるのは当然で
それは
「売る」では伝わらなくて
やっぱり
「嫁に出す」なわけです。

なので、英語に訳す時も
文字通り「嫁に出す/嫁入りさせる」としています。
(That tea bowl "became a bride" of someone who longed for it.と言ったり。)

それくらい
通訳する時は
話し手の言葉をそのまま
わかる限り気持ちもそのまま伝わるように
心を込めて現場に立つのが大切
ではないのかなと思っております。

言語はツールでしかなくて、大切なのは話し手の伝えたいこと

今回のご質問はそもそも

「(外国人向けにやってみたいことがあったけれど)
語学に自信がないので
やっぱりやめようと思います。」

というお話を聞き

「こんなことを外国人に(つまり世界に)伝えたい」
という想いをお持ちなのに
語学が理由で諦めるのは
勿体ないなと思って
お節介な言葉をかけたことから
いただいたご質問でした。

そして
「先の経験から、(通訳さんを介しても)
伝えたい内容が全部伝わらないのなら
自分でやるしかないなと思ってました。
(でも語学力に自信がないのでやめようと思いました。)
でもお話を聞いて
やると決めたわけではないですが
選択肢が増えました」

ときいて嬉しく思いました。

先日の商工会議所の外国人観光客おもてなし講座の時にも話しましたが
(記事はこちら)
言語はツールでしかないので
おもてなしも、日本文化体験も、
その人が何を持っているのか
どんな想いなのかが
一番大切だと思っています。

言語は単なるツールでしかないので
人を幸せにする豊かなコンテンツがある人は
あとはツールをどうにか手配すれば良いわけで

外国人に(つまり世界に向かって)
伝えたい想いがあるのに
語学が原因で諦めるのは勿体無い
と思っております。

流暢な外国語を自分自身が話せるようになるまでやらない
となれば
一体何年待てば流暢になると言うのでしょうか。
一体何年待てば外国人をお迎えできる状態になるのでしょうか。

何度も何度も繰り返し言いますが、
語学はただのツールでしかないんです。
大切なのは、そのツールを使って何を伝えるか!!
です。

伝えたいものや想いがある人は
それを一番大切にしていただきたいと思っています。
ツールはなんとでもなる!

そういう意味で
通訳案内士も
語学ができるだけじゃなくて
日本に関する深い知識を持って
お客様を感動させるコンテンツの引き出しを充実させていくのが
大切だと思っております。

日々研鑽ですね。

今日も最後までお読みいただき
ありがとうございました!


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