TEAM雷電に寄せて

ファイナル最終戦は波乱は起きず多井さんのパーフェクトゲームと言っていい内容でABEMASが初優勝を飾った。多井さんの優勝インタビューは見ていてグッとこみ上げるものがあってよかったと思う。
ただ、個人的には今シーズンのMリーグを大いに盛り上げたチームは雷電ではないかと思う。

雷電は昨シーズン空前絶後の歴史的大敗を喫した。今シーズンはファイナルを逃すとチームは解体というプレッシャーのなかファイナイル進出を果たした。
ところでRMOという3文字がいつしかTwitterのTL上でよく見かけるようになった。私はその意味が最初はよくわからなかったが少し考えたら雷電のトップインタビューでお馴染みのあのフレーズだと気付いた。

雷電の麻雀は
(Raiden’s Mahjong is)


オモロー
(Omoroー)

古っ!て思うんだけど、「雷電の麻雀は(Raiden's Mahjong is)」と来たらついこっちのが語呂が良い気がしてしまうのよね。正しくはこっち。

面白いんです!!
おもしいんです
面白いんです
(恥じらいつつ)面白いんです

ハギーは流石に一流俳優だけあってポーズがとてもカッコ良い。こうして見比べてみるとチームメイトの3名よりハギーは肩がしっかり入っていることに気付くだろう。ハギーはトップを取って気が緩んでもおかしくないインタビューでもカメラが回っている限り最後まで決して気を抜かない。見られ方を熟知しているハギーはインタビューの発言も立ち振る舞いもMリーガー32名中ダントツで1位だと思う。Mリーグでは逆境のシーンがあまりにも多くて恐らくトップインタビューよりラスの悲しみインタビューの方が多いんではないだろうかと感じるんだけどハギーはどんなに悔しくても悲しくても気丈に振舞う。たくさんのファンが見ていることを誰よりも意識していてるから悲しい時こそ笑うハギー。ハギーが雷電にいてくれてホントに良かったと思う。余談だがサクラナイツのおかぴーはミスを犯してインタビューでも落ち込んでいた時にハギーに励まされて立ち直れたという。

私はハギーの麻雀をずいぶん前から見てきた。村上淳さんの麻雀は20年見てきたがハギーは途中ご無沙汰だった時代を含むがざっと足掛け30年にはなる。きっかけはフジテレビの割れ目でポンだったと思う。私が学生時代にハギーがドラマ「若者のすべて」で主演し同級生の女子はハギー(とキムタク)に目を奪われていた。ハギーが結婚した時は周囲の女子たちは歯ぎしりして嫉妬しながら騒ぎ立てていた。そんなスターが麻雀番組に出演したのだから同級生の間では話題沸騰だったのだ。しかも麻雀対局が民放キー局で放送されるのは(11PMを除いて)初めてだったことも相まって学生麻雀友達はみんな夜中にハギーの一挙手一投足に注目した。小手返しといえばハギー。ハギーの小手返しに皆憧れて真似した。当時は小島武夫さんの小手返しの方がはるかに凄かったと思うんだけど麻雀プロは知る人ぞ知る存在だったのでMr麻雀を差し置いてハギーの小手返しを私も練習しまくったものだ。当時はプロや著名人の麻雀を見ること自体が珍しくて新鮮でワクワクした。芸能界最強の呼び声高いハギーの麻雀が近代麻雀で紹介される度に食い入るように見ていた。牌譜でハギーが三色を決めると私は感情移入してとても興奮した。下図はちょっと見にくいがハギーの誌上対局の一コマだ。

ハギーの7p浮かせ打ちからの三色

配牌では三色を見るならパッと見て下のメンツ(123or234or345)を中心に組むことになろうかというところ。
なぜか789三色に絞った3巡目の打7pがカン8p待ちを凄く良くしている。
ハギーはかつてこういう手役と時折見せる今でいうガラクタ立直とのバランス、そして持ち前の勝負強さで公開対局を総なめにした時代があった。RMU発足当初のトッププロ相手(多井さん、土田さん、古久根さんだったかな?)の特別対局でも堂々たる優勝を飾った。対局終盤には必ずと言っていいほど見せ場を作っていたしトッププロ相手に一歩も引かず名勝負をいくつも繰り広げたのだ。

時は経ちハギーはプレイヤーだけには収まらずプロデュース側にも参画し始める。女流プロを育成した「麻雀ディーバリーグ」、著名人から若手中堅麻雀プロを集結した「The萩原リーグ」が代表格だろうか。しかしハギーが座長ということで多分に演出もあったであろうとは推測されるがこの頃のハギーを私はあまり快くは思っていなかった。次第にハギーの主観による対局者に対する批判が散見されていささか傲慢にも映る立ち振る舞いが目立ち始めたためだ。どちらもリーグ戦ではあったがいずれも超短期決戦であり勝負の在り方と個人の爪跡の残し方とのバランスがとても難しく単純な棒テン即リーチよりもたとえ実らずとも手役や高目追及が見えるならそこを追いロマンを見せたいという考え方は理解は出来る。エンタメに生きる当時のハギーの美学は正解の一つでもあるだろう。麻雀には色んな楽しみ方があると思うし一つの考えに固執し強要するのは少しやり過ぎな感も否めなかった。また、プロ批判もあの頃のハギーの発言でしばしば見かけた。だからあの頃のハギーへのネガティブな印象はしばらく引きずることになった。多くの麻雀プロも同じような感情を抱いていたかもしれない。ただ、あの当時ハギーほど麻雀の普及に貢献していた麻雀プロやプロ団体はいなかったようにも思う。あの頃の麻雀プロは各団体での活動に注力していてどちらかというとそのエネルギーは個々の実績を追及することに向いており今のように外に向けられることはなかったように思う。今ほどツールもないので無理もないが。だからあの頃のハギーの気持ちを思うと一概に否定はできなかったので個人的にモヤモヤした記憶がある。

やがてAbemaTVが発足してRTDリーグが開催されMリーグに発展して今に至るんだけどRTDリーグや団体対抗戦辺りは私自身は麻雀から遠ざかっていたのでほとんど見ていない。藤田社長が最強戦で優勝して後に大きな発表をするということで麻雀プロにスポンサーがつくということをおぼろげに想像した時にMリーグが発足されてハギーも同時期にプロ麻雀連盟に入会したので多くの麻雀ファンがおおよその今後の展望を察したんではないかと思う。

周知のとおりハギーのMリーグでの成績ははっきり言って悪い。かつての輝きを失ったというよりは周囲のプロのレベルの底上げのスピードについていけなくなっていたという印象だった。小島武夫の「魅せて勝つ」を継承したいと言っていたハギーの麻雀は赤有りのシビアな麻雀になかなかアジャスト出来ずに苦しんでいた。それだけでなくSNSという大きな壁にもぶつかった。感情をむき出しにして対局する姿勢を「マナ悪」と叩いたり(実際強打やグリグリ盲牌する所作はあったが)、状況や効率を無視した手作りといった好成績に直結しない手筋はTwitterを中心にいわゆる麻雀ガチ勢に酷評され始めた。TEAM雷電発足当初にハギーはチームメイトである瀬戸熊さんや黒沢さんに麻雀でチームカラーを表現したいといった主旨のコンセンサスを取りに行ったという。これが後のRMOにつながるんだと思うんだけど黒沢さんは当初そこに上手くなじめなくてハギーの厳しい指導に涙したというエピソードを何かのインタビューで見た気がする。その黒沢さんがチームをけん引する存在になったこともハギーにはある意味では辛い出来事だったのではないだろうか。セレブ打法で今では大人気の黒沢さんの麻雀は異常ともいえる門前主義で現代麻雀の効率とはかけ離れた内容だがそれはファンを魅了して勝つというハギーが提唱していた麻雀だった。魅せて勝つという自分がその役割を担えないどころかチームにポイントを持って帰れないふがいなさ、かつて批判していた麻雀プロになすすべもなく負けていく自分を必死で奮い立たせて変わろうともがき始めたように見えた。
あの時の臨場感が伝わるとても良い沖中裕也さん(ZEROさん)の観戦記です。

瀬戸熊さんの麻雀も正直言って現代麻雀とはかけ離れた内容で雷電の美学には通じるものがあっても麻雀で勝つための損得勘定で言えば損な選択が多いように思う。福地さんのこの記事が的確だと私も思う。

そしてチームとしては勝ちきれないまま唯一ファイナルに進出することがなく、レギュレーションの規定により本田さんが加入(規定の穴というべき解体を避けるように4人体制のタイミングをずらして加入させる手法は賛否があった)するわけだが本田さんとしてはかなり困惑していたんではないだろうか。本田さんの初年度の麻雀は見ていて雷電らしさどころか正直言って私には何の主張も感じられない内容だった。私が偉そうに言えたことではないがなんとなくふわっとしていてなんとなくツモって切るみたいに見えていた。チームポイントはワースト記録をどんどん塗り替えていくなかでそれでも本田さんを率先して起用していく。ルックス以外に何の魅力もなく他に魅力的なプロはたくさんいるのになぜ彼が選ばれたんだろう?と失礼ながら感じたこともあった。

こうして作シーズンは記録的な大敗を喫したわけだけど来シーズンもファイナル進出は到底無理だろうと思っていた。やっぱり雷電といえばハギーだけどハギーが抜けるならスポンサーも撤退するんじゃないだろうか?なんて思ったりもした。
今シーズンもハギーは負け続けた。でも初年度に比べると必死に食らいつこうとしているハギーに、手役なんてなくていい、不格好でもいい、とにかくチームをファイナルに導こうとするハギーに魅了されたファンがTLにたくさん見かけるようになった。(今シーズンは全体の半分も試合は見てないけども)今では小手先の技術を捨ててプライドも捨てて過剰に安全牌を抱えながらいつか来るであろうチャンスまで振り落とされないようにがむしゃらに前のめりに対局に臨んだ。試合に出場する機会が減ることも厭わないチームの引き立て役に徹するようにも見えたハギー。ハギーはチームメイトが気持ちよく対局に臨めるように差し入れや気配り、どんなにスケジュールが押しても可能な限り現場に訪れたという。本田さんの今シーズンの愚直なまでのリーチ攻勢は彼なりのハギーへのアンサーだったのではないだろうか。ラス目ドラ無し赤ナシ愚形待ちでも愚直にリーチする姿もあった。自分に出来ることはなんなのか必死に考えたんだと思う。昨シーズンまでのふわっとした彼はもういなかった。彼は確かに静かに闘志を燃やして対局に挑んでいた。私個人の見解では本田さんに限らず雷電のメンバーはMリーガー32人中で技量としては下位にいると思っている。ただ、思考が深いからといって必ずしも勝てるものではないけど今シーズンの本田さんの麻雀は自分の信じる道を貫く姿勢に結果がついてきたように思える。運や手材料に恵まれ過ぎていた面もあったように見えるが運に身を委ねることも案外難しい。常に真っ直ぐ手を進めることって怖くて出来ない場面もあったりする。レギュラーシーズン序盤のオーラスでラス目で残り巡目がかなり少なくノーテンの状況で無理に押した結果放銃したこともあった。かなり無謀な勝負に映ったしああいう無駄な失点は恰好の叩かれる対象になる。試合後のインタビューは着巡アップを最後まで狙っていたと堂々と述べていた。今でもあのシーンは無謀で無駄な失点だと思うけどミスも含めて本田さんは今シーズン一番チャレンジしていたのではないだろうか。

また、セミファイナルではなかなかハギーが登場しなくて実は入院していたなんてニュースもあったけどチームにとって不運でさえカンフル剤になるくらい結束が強かった今シーズンの雷電。セミファイナル終盤パイレーツの猛追に絶対に落とせない5/2の対局で瀬戸熊さんは気迫の2着となった。印象的だったのがこの対局でラス目で迎えた南場の親番で序盤に切ったドラの西、普段の瀬戸熊さんならまだ打たなそうな手恰好でのドラ。滝沢さんは雷電に捲られるとKONAMIがパイレーツの標的にされるリスクがあるのでここは局消化が一番のテーマの局面。松ヶ瀬さんはトップ目でやはり局消化がテーマ。仲林さんはラス目の雷電を抑えて2着あるいはトップになればパイレーツのファイナル進出がかなり現実味を帯びるということでここも局消化がテーマ。子方全員が局消化を見据えるなかで親の早々のドラ切りを見て早く流したい思惑の子方が受け始める瞬間がはっきり見えます。顕著に現れたのは仲林さんが愚形部分を処理した瞬間で次巡メンツかぶりの裏目を引きます。仲林さんとしては自身の手が良くないので特別悪手だったとは思いませんが瀬戸熊さんの気迫が子方全員に消極策を取らせて局面を長引かせ、結果的に26オールをツモったのでした。Abemaプレミアム会員の方はこの局の瀬戸熊さんのドラ切り直後から注意して見返すと面白いと思います。
また、セミファイナル終盤では本田さんや黒沢さんもリスクを追わずにアドバンテージを活かし目の前の着順を捨ててでも確実にファイナルに進むための選択を取ったこともありました。個人的には条件戦に不利な印象を持っていた雷電でしたがきちんとテーマを持って各々が役割に徹しており、まさにチーム一丸となって泥臭くて地味なプレイに徹していましたがあの時の様子はおおむねTLでは好印象だったように思います。ファイナルに行くというテーマに沿ってチーム一丸となって戦う姿、これも雷電が目指す魅せて勝つ麻雀の一つだったのではないでしょうか。

ハギーも無事退院しファイナル進出を決めて優勝もあるんじゃないか?と期待したファンもたくさんいたように思います。結果からみると早々に風林火山が落ちていきABEMASの不沈艦白鳥松本のショウマツコンビの活躍を中心にABEMASの安定した横綱相撲で初優勝となりました。雷電はファイナル終盤5連ラスを喫しまさかの大失速。最後は追い上げる風林火山を振り切り見事3位入賞を果たしました。

今シーズンの雷電の目標はファイナル進出。目標を果たした雷電ですがファイナルまでの道中で様々なドラマがあり今シーズンのMリーグを最も沸かせたチームではないでしょうか。Mリーグ発足当初からのハギーの苦悩、瀬戸熊さんの美学、黒沢さんは我慢、本田さんの成長。
優勝こそ手が届きませんでしたが今シーズンのMリーグは「TEAM雷電ファイナルへの道」主演雷電、エキストラその他のMリーガー達。場面によってはそんな錯覚すら感じさせる大躍進でした。

漫画家あだち充先生の名作「タッチ」の最大のテーマは「南を甲子園へ連れてって」ということで上杉達也がいかに浅倉南を甲子園に連れていくかというテーマに沿って様々なドラマがあったわけですが以外にも目的地である甲子園での模様はほとんど描写されていません。もしかすると雷電の今シーズンのテーマである「雷電ユニバースをファイナルへ連れてって」とダブらせた中年層のファンもいたのではないでしょうか。図らずもファイナルでは見せ場が少なく3位争いに焦点を絞らざるを得ない状況になってしまいましたがファイナル最終日の初戦で苦しいラスを引かされたハギーのインタビューの笑顔はとても清々しく相変わらず素敵でした。

麻雀はハートで打つ。今シーズンの雷電にはこの言葉が一番しっくり来たと思います。
小手先の技術では決して味わうことの出来ない感動を与えられる唯一のチームではないでしょうか。
そんなTEAM雷電に個人的には敢闘賞を捧げたいと思うのです。
なお、賞金賞品は一切ありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?