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【短編小説】大丈夫

「自転車で転んだの?痛くない?」
大丈夫。

「もしかして、いじめられてる?相談乗るよ?」
大丈夫。

「ごめんねー、今日どうしても外せない予定あってさ…。仕事代わってくれない?」
大丈夫。


幼い時からその言葉を口癖のように繰り返して、自分を縛る呪いのように感じ始めたのは、果たしていつ頃だったか。
それすらもう覚えていない。

かと言ってそこで誰かのせいにすると、ぼく自身の人間性や存在を自ら否定しているみたいで嫌だった。

だったら『手のかからない子供』『告げ口しない標的』『利用しやすい便利な同僚』でいた方が、ずっといいと思っていたんだ。

あの時までは。

ぼく、何かしたかな?
あなた達に害を及ぼしたこと、あったっけ?

あの人はね、ぼくの唯一と言っていい程の理解者だったんだよ。
それを何故、あなた達は見殺しにしたの?

あの人のことだ。あなた達が自分らで蒔いた種のせいで命の危機に瀕している時、事情を知らず、むしろ問い詰めることもせず、あなた達を優先的に助けたんでしょう?
自身が死ぬまで。

うん、分かってるよ。あの人が自主的にそうしたんだろうってことも、あなた達がそれを後悔していないであろうってことも。

だからこれは復讐じゃない。
ぼくの自己満足だ。

あのさぁ…人が話している時に言い訳とか謝罪の言葉を吐くのはやめてくれないか?あなた達の声、もう聞きたくないんだよね。本当にうるさい。
そもそもぼくに謝られても、って感じ。

よし。ここまですればもう喋れないよね。
おーい、気失ってないでもっとぼくの話聞いてよ。

だめだこりゃ。
さてと。あとはあなただけだね。

親を手にかけるのが苦しくないのか、って?ぜーんぜん。言ったでしょう?
ぼくの理解者はあなた達が見殺しにした、あの人だけだって。

ああ、大丈夫。
一瞬で終わらせる気はないからさ。

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