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【小説】復讐代行者 シロツメ【2】

引きこもりは、必ずしも全く外に出ない訳じゃない。自らの用事でこうして必要最低限の距離まで出歩くことだってある。そんなことを言い出すと、引きこもりとそうでない人の境界って厳密には曖昧なのかも。

ただ、日々をそつなくこなしている人達とは違い、普段から人と接することが極々限られているぼく達引きこもりはコミュニケーション能力が圧倒的に低い。だから急に話しかけられたりすると分かりやすい程に萎縮してしまう。
少なくともぼくは。


1人住まいのアパートから徒歩15分圏内にある廃ビルの前で立ち止まった。
何年も前からずっと封鎖されている為か、今にも崩落しそうな外観。そして昼間でも「出る」ような雰囲気を余すことなく醸し出している。とどめに「やばい職業の人が出入りしている」といういつからか流れ出した噂のせいで全く人が寄りつかない。

まぁ、正直ぼく達にとってはどれも好都合だけれど。

廃ビルの入口はシャッターが下りていて入れないので、『いつも』は別の場所からお邪魔している。
この5階もない実に微妙な高さのビルの裏手にまわりしばらく歩を進めると、開発途中で計画が頓挫したらしいゴーストタウンに着く。更にそこを突っ切ると奥にオープンすることのなかったショッピングモールが見えてきた。正面の自動ドアは作動しないので【従業員専用】と書いてあるドアのノブを回して中へと入っていく。

そこから誰もいないショッピングモール内部へお邪魔して、動かないエスカレーターを踏みしめて3階まで上がる。その階で1番スペースを取っている婦人服コーナーの埃を被った2体のマネキン夫婦の傍を通り抜け、非常階段を昇って屋上の駐車場へのドアを開けた。
ここから脇の螺旋階段を下って行き、地下へと向かうのだ。

で、その地下があの例の廃ビルと繋がっているって訳。

そこがぼくらのアジト…というか、拠点と言うべき場所だろうか。ともかくぼく達が直接話す時は大体この廃ビル地下の一室に集う。

「遅いぞ」
むき出しの豆電球くらいしか照明と呼べるものが仕事していない薄暗い部屋の中に入ると、古びたソファに腰かけていた背の高い男がゆっくり立ち上がる。
「そんなこと言って、あんたもさっき着いたばかりでしょう」
その男に隠れるように後ろにいた女子が、ひょっこりと顔を出した。
「すみませんまぁく様…りり、まぁく様に会えると思ったらいても経ってもいられず指定時間より早くに…」

女子の方が何故だか申し訳なさそうにうなだれる。どうしてここでしおらしい態度を取るのか。時間にルーズな人より5分10分早く着く人の方が好印象なものなのに。

「大丈夫だよ、リリー」
女子の頭を軽くぽんぽんと撫でると今度は一気に大人しくなった。本当にこの子はころころと態度が変わって面白いな。
一方の背の高い男は何故か肩をすくめていた。

ぼく何かおかしな対応したかな?
これだから人と関わることは難しい…。

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