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【短編小説】真冬の季節

「本格的に寒くなってきたねー…」
隣を歩く友人がそう呟いた。私はそうだね、とだけ零してから擦り合わせてる両手に息を吹きかけた。

「あ、自販機だ。丁度いいや、何かあったかいの買お!」
「うちの学校、校則で買い食い禁止だよ…」
「どうせもう家に帰るだけなんだしいいじゃん。それにこれは、買い食いじゃなくて買い飲みだしっ」
また訳の分からない屁理屈を…。などと考えてる間にも友人は自動販売機に小走りで近付いて、既に飲み物を選んでいる。

「どれにしようかなー…。よし、迷った時には同時押しだ」
「早いとこ決めてね…待ってるこっちは寒くて仕方ないんだから。あと、隣合ってるボタンを同時に押した場合、左の商品の出る確率が圧倒的に高いらしいよ」
まぁこれはあくまで俗説というか迷信じみた噂だけど、確かそんな話を聞いたことがある気がして友人にアドバイスした。
「え、マジで?
だから左のが出ちゃったのかー…」
そう言った友人の手には既にミルクティーの缶が握られている。

「相変わらず人の話聞かないよね」
「まーまー!はいこれ。ずっと寒そうにしてたから買ってきたよ」
「私の…?」
「他に誰がいんの?」
友人はきょとんとした顔をして質問を返す。気持ちはとても有り難い、でも…。
「買い飲みが嫌なら、家に帰ってからでもいいし」

「好意は有り難いんだけど…私紅茶飲めない…」

「えっ
あぁ…そういや前に言ってたような…」
本当に人の話聞かないよなぁ…。そんな抜けたところも面白いんだけど。

そんなことを考えていると、頬に何か冷たいものが触れた。
「雪だ」
「雪だね」
2人して空を見上げると、視界に白いものがちらほらと映る。
「もうすっかり冬になったんだねー…」
なんてしみじみ言うと友人がそれに被せるようにポツリと零した。

「あんたの季節だね。真冬」

「それよく言われるよ」
「え、嘘。結構上手いこと言ったと思ったんだけど」
友人のその言葉に、どちらからともなく笑い合った。

どうかこの先も、気兼ねなく話せるこの子と過ごせますように。

私は流れ星の代わりに空から地上目指して舞い降りる雪に、そんな願いを託してみた。

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