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【短編小説】レストラン

ただいまー…って言っても、出迎えてくれる人なんていないか。特に親しい友達のいない一人暮らしほど寂しいものもないな。
そういえば、ポストのチラシやらが溜まってたな。いい加減仕分けるか。

塾生募集?私はれっきとした成人女性です。はい次。
新たに保育所が出来ます…ねぇ。恋人なし歴イコール年齢を舐めるな、子供なんて望めんわ。はい次。

その後も興味のないチラシや関係のなさそうな広告が出るわ出るわ。いい加減うんざりしてた私の目に、ある文体が飛び込んできた。

『レストラン新規開店キャンペーン』

そのチラシによると、近所に新たな飲食店がオープンするらしい。外食などと贅沢なものは一人暮らしを始めてから極力避けてきたが、キャンペーン期間中はこのチラシを提示した女性客は特別割引が適用されるといったことが書いてあった。
これを逃さない手はないな。丁度今月中に割引期間が終わるみたいだし、明日のお昼はここに行ってみよう。


翌日。リモートでの仕事が一段落着いた昼下がりに、私はあのチラシを鞄に忍ばせて目的のレストランへ向かった。
と、掲げてあるそれらしき看板を見て私は一瞬面食らった。そこには『フェミレス この先』と書いてあったのだ。
フェミレス?ファミレスの書き間違いか?書き間違いではないとしたら、何だか少し嫌な予感がするな。あのフェミがフェミニズムやフェミニストのフェミだとしたら…。

私はフェミニストを名乗る人々にわずかだが恐怖心を抱いている。特にその中に紛れている、声を上げて注目を浴びたいだけの自称フェミニストに。
その人達にはこれまで嫌な思いしかさせられていないのだ。

レストランへ着いた。着いたはいいが、結論から言うと門前払いを喰らった。
やはりレストランの看板のフェミレスは書き間違いではなく、フェミニストを名乗る男性が店主をしているレストランだった。
そんな彼は、私を頭からつま先までまじまじと見てこう言い放ったのだ。

「申し訳ありません。本日は女性のお客様限定で営業してまして、男性の方は…ちょっと…」

フェミニスト大いに結構。だが見た目で判断はして欲しくないものだ。やはり彼も『自称』フェミニストだったか。
心は誰よりも女性なんだけどなぁ。あんなに説明したのに、私が説明すればするほど店主の彼はこちらを訝しげに見つめてきた。私は自分の足下を視界に入れる形で俯き、ため息を吐く。



私だって、好きで男に生まれた訳じゃないのに。本当に生きにくい世の中だ。

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