見出し画像

【短編小説】不眠症

カチ、カチ…と壁掛け時計の秒針が進む音を、今晩は寝転がりながらどれ程聞いただろう。
俺の体内時計の狂いが大きくなければ今頃は午前3時くらいだろうな。隣では背中をこちらに向けて寝息を立てている存在。
俺はそいつの体を軽く揺さぶって声をかけた。

「なぁ…寝ちゃった?」
返事はない。更にゆっくり揺すってみる。

「なーあー、本当は起きてんだろー…?」
なあなあ、と諦めず声をかけ続け揺すり続ける。するとそいつはようやくこちらを向いた。俺の思いが届いたか。

だが振り返った表情は明らかにご機嫌ななめ。そりゃそうだ。安らかに気持ちよく眠っているところを無理やり起こされたら誰だって機嫌を損ねる。

そんなことを思っている時だった。頬に爪を立てられたのは。
「いっててて!」

そこまですることないじゃんか。俺が何したって言うんだよ…。いや、眠りを妨げるという充分過ぎる重罪を犯したな。うん。
心の中でそんな1人ボケツッコミをしていると、外が明るみ出していることに気付いた。

しかしあれだな。

ド深夜から朝方にかけてひたすら飼い猫にかまちょし続けるそこそこの歳の1人暮らし恋人なしの男って、きっと色んな意味でひどい絵面なんだろうな。

ああ、今夜も眠れなかった…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?