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続続・マンション麻雀に挑戦した話(フィクションです)

前回
続・マンション麻雀に挑戦した話(フィクションです)


初回
マンション麻雀に挑戦した話(フィクションです)


前回までのあらすじ
 負けられない100お気持ちポイントを早々に30溶かし、またもやダンラスで迎えた4ゲーム目オーラス。私味噌汁の水割りは、鉄ダマの数え役満を曲げてメンピンツモチンイツ一通ドラ8を和了り脳汁を撒き散らした。

ルール
東南戦
レート:1000点0.2お気持ちポイント
順位ウマ:2-5お気持ちポイント(帳面で後ほど精算)
祝儀:一発赤裏=1お気持ちポイント(チップでやり取り)




「8000 16000の4枚です」

 脳内でβ-エンドルフィンだかドーパミンだかを撒き散らしながら私は、努めて冷静に点数申告を行った。役満を和了ろうとも感情をなるべく出さないのは、学生時代にしていたフリー雀荘でのメンバー経験による影響が大きい。あのまま終われば9.6お気持ちポイントの支払いであり、祝儀込で約15お気持ちポイントを4ゲーム目だけで払うところであった。それを1和了で約18お気持ちポイント浮きに変えたにしては少々感情を殺しすぎたかもしれないが、40お気持ちポイント程度の上下であたふたする奴だと思われないように注意を払った結果である。

 そんな私に、OさんTさんHさんの3人が次々に声をかける。

「役満親被りで2家はついてる(笑)。それにしても水割りくん、ようやくきたね。よかったよかった」

「ほんとここまでついてなったですからね」

「水割りさん初トップおめでとう」

 ああ、この人たちはこういうところが『強い』んだ──。3人からの祝福の言葉を聞き、私は悟った。

 博打界隈には盆面(ぼんづら)という言葉がある。勝負事の最中の態度のことだが、盆面が悪い人は総じて損をしていると私は思う。要するに勝った時に調子の良い発言をしたり、負けや不運に見舞われた際に不機嫌になるなど態度に出る人は嫌われやすく、結果としておいしい話が逃げていってしまうよということだ。おいしい話というのは今回の様な高お気持ちポイントのマンション麻雀だったり、もしかしたらビジネスの話だって盆面が良ければ舞い込んでくるかもしれない。博打の場で人は、結構他人の人間性を見ているものだ。

 今回の私の和了はハッキリいってクソである。Oさん、Tさん、Hさんからしたら「なんだそりゃ。ダマ数えを曲げて裏4とか強欲の壺だなアリエンロッベンgmkzは市ね」くらいは思われているだろう。雀力的に早い巡目の手出しを見ていたか怪しいが、聴牌外しもイラツキポイントかもしれない。しかし3人はそんな態度をおくびにも出さず、笑顔で私の役満と初トップを祝福した。別に3人が良い人と言いたいわけではない。繰り返すが、絶対に心の中では罵詈雑言の嵐のはずである。それを態度に出さないことが重要なのだ。この3人、特にお呼ばれ組のTさんHさんはそれができるから、Oさんのセットに呼ばれているのだろう。

 私もなるべく盆面はよく見せようと努力はしているが、私が今回のような和了を他人にされた場合「聴牌外して清一色さすがっすねw中々できないですよ(牌理的にありえねーw)」くらいの、やや伝わりづらい嫌味をなるべく嫌味っぽくなく言ってしまう可能性はある。しかしこの3人はそういうところも一切なく、ただ私のこれまでの不ヅキを労り、この和了を祝福した。中々できることではない。だから仕事でもうまくいっているのだろう。Oさんだけは本当にカタギかどうかが怪しいが、正規の仕事してるのに(財布が)寒い私よりはマシであろう。

 雀力とかそういう話以前に単純に人間として敗北感を感じてしまった私は、これまで考えていた3人への評価を改め反省した。今からは素直にこの場の空気を吸収して帰ろう。もしそれで100お気持ちポイントを溶かしたら、翌週末に工事現場の面接にいき分割返済していこう。

 その後は一進一退の攻防が続き、誰が特別浮くということもなく9ゲームが終わった。空が白み始めた10回戦が始まるタイミングで、このゲームで今日はお開きにしようとOさんが提案した。回数もキリがいい。全員がそれを了承した。

 私は9ゲーム目までの時点で、祝儀込で2お気持ちポイントの浮きというほぼトントンであった。レートからすれば0と一緒みたいなものだ。細かい状況は省くが全員1万点以内の僅差で迎えたオーラス、2着目で南家の私の手は6巡目でこんな形になった。

 123888m56779p西西中

 ドラ2m

 手替わりは良形変化が67pと西、一応字牌待ちに変えられる変化として49pを入れても5種14牌。打点が増えるのはイーペーコー絡みの56pか赤5pだけ。現代麻雀技術論の手替わり待ちしていい基準が6巡目だと何種何牌だったか定かではないが多分全然足りてないので、状況考えなければ中切って鉄リーチの手だ(確か3巡か4巡でも10種近く良形変化必要だったはず)。今はオーラスなので、2家→4家の着順降下可能性がリーチによってどうなるかを考えなければ本来いけないのだろうが(着順が2つ下がるとウマが+2お気持ちポイント→-5お気持ちポイントで7お気持ちポイント損するため)、祝儀比率が高いルールだし、和了トップだ。リーチが強いはず。このくらいのなんとなくデジタル+大雑把な押し引き判断が自分がやってきた麻雀だ。多分Oさんあたりが追っかけてきそうだがそれもいい。自分の麻雀をやって、その結果を受け入れよう。

ワイ「リーチ!」

Oさん「あ、俺もテンパった」

ワイ「えっ」

Oさん「通ればリーチ!」

ワイ「あっ、えっ」ツモ赤5m ソッと河に置く

Oさん「ロン!一発で跳満の4枚!」カン5m追っかけ

ワイ「あっあっあっ」

3人「「「わはは」」」

 わははちゃうわ。普通にラスった。最後だしレートきついしとりダマからのオリ3着OKスタイルでお茶を濁せばよかった。大体何が自分の麻雀や。麻雀に自分も他人も攻撃型も守備型もあるかいな。攻撃すべきとこで攻撃し守るべきところで守るだけや。攻撃型とか言う奴は大体ただの押しすぎマンやってそれワイのことやないかーい(ここまでの思考約2秒)。

 終了後、帳面につけていた成績とチップを合わせお気持ちポイントの精算を行った。レートが高すぎて麻痺していた一般庶民としての感覚が、トータル約10お気持ちポイント負けという結果によって戻ってきた。9回戦までトントンから1ゲームで10お気持ちポイント失うとかやっぱ狂ってるな…。ただフリー麻雀なら熱続行(ラス半コールをしてから負けて熱くなりやっぱり続行すること)して傷口を広げていたところであるので、その点は助かったと言えよう。

 精算終了後しばらく談笑の時間が続き、3人は食事かサウナにでもいきたそうな雰囲気になってきた。土曜日の夜が明け、現在は日曜の早朝である。私は一人でOさんの自宅マンションを後にした。初参加である私を誘うべきか、3人が図りかねている雰囲気だったからだ。レート的に今後この会に参加し続けることは難しいこともあるが、3人と私では経済力が違う。店選びなどに気を遣わせてしまうのも面倒くさい。

 朝日が既にマンションの外壁を照らしていた。最寄りの駅までは徒歩で10分ほどだが、私は配車アプリでタクシーを呼んだ。家までは1お気持ちポイントもしないだろう。次回裏を1枚多くツモればいい。いや次回はないのか──。くだらないことを考えながら配車されたタクシーに名前を告げ、後部座席に深く座った。

「ん」

 ズボンの左ポケットがブルっと震える。私は目の前に映るサイネージ広告の名刺管理アプリから、取り出したiPhoneに目を落とした。友人のS君からのLINEだ。どうだった?という内容が4件ほど来ている。そういえば途中経過など報告をしていなかった。額が額だけに心配だったのだろう。「生還」とだけ返信し、50お気持ちポイントを返済できる喜びと疲労感がないまぜになったアンニュイ寄りの心持ちで、運転手に自宅の住所を告げた。



マンション麻雀編(その1)オワオワリ

その2も多分あります。


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