Before状態を根性のみで乗り越えた者だけが ADHDに「努力が足りない」って言っていいけど、 本当はできればそんなこと言わないで、うまくやる方法を一緒に考えてほしい
Before
午前10時。これからプレゼンの資料を作らなければならない。
パワーポイントのアイコンをダブルクリック。
マウスの指が当たるところに汚れがついていて、
ざらっとした感触になっている。
少しくすぐったい。
まあ、そんなに大した汚れじゃないし放置でいいか。
いつのまにかできていた指のささくれが痛い。
気になるとつい触ってしまう。
あ、血が出た。ティッシュティッシュ。
よかった、止まった。
メールが来たお知らせのアイコンがポップアップして、ブラウザを開く。
セミナーのお知らせ。どうしようかなー。
スケジュールを確認。
まだ行くって決めたわけじゃないけど、
忘れてしまうから、一応タスクリストに書いておこう。
時間と場所と、タイトルをコピーして、貼り付け。
「時間があれば行く」っと。
今何をやっているんだっけ。
そうだ、私はこれからプレゼンの資料を作らなければならない。
スマホが視界に入る。
気になる。
気になる。
気になる。
でも見ない。見てはいけない。
なぜなら私にはやることがあるから。
頭の奥が熱い。
歯を食いしばって顔をディスプレイに向ける。
向かいの席の人が席を立った音がする。
ボタン操作の音、コピー機が動く音。
あ、紙が詰まったみたいだ。
ごとごと音がして、紙詰まりの場所を探しているようだ。
私の時じゃなくて良かった。
パワーポイントのアイコンがオレンジ色に点滅している。
クリック。
最近開いたファイルの一覧。
あれ、「プレゼンテーション1」ってなんだっけ。
ダブルクリック。
白紙のスライドが1枚、2枚目には英数字の羅列。
これ、忘れないように書いたんだった。
コピーしてブラウザに貼り付け。
エンターキーを押す。
ドアが開く音。足音。
斜め前で打ち合わせが始まる。
ぼそぼそと、内容はよくわからない。
人が二人。話し声。
あれ、今何をやっているんだっけ。
そうだ、私はこれからプレゼンの資料を作らなければならない。
意志の力を振り絞って、無理やり顔をディスプレイに向ける。
かみの毛の先が額に触れる。
くすぐったい。
髪をかき上げる。
耳がかゆい。
かいてもかゆい。
シャンプー変えようかな。
ずっと座っているから、お尻や太ももの裏がむずむずする。
靴下を履いている足の裏もむずむずする。
足を組み替える。
力が入っている肩と首が痛い。
ずっとフル稼働させている頭の奥が熱い。
身体が重くなってきた。
首を回す。
天井で蛍光灯が点滅している。
目が痛い。
あれ、今何をやっているんだっけ。
そうだ、私はこれからプレゼンの資料を作らなければならない。
もう午前11時なのに、何も進んでなくない?
もしかして、とかばんの中を覗く。
時間がなくて、家を出る前に飲めなかった、薬のケースがある。
飲んでなかった!
慌ててカプセルを口に入れ、ペットボトルのお茶で飲みこむ。
「ちょっとこれ見てくれる?」
打ち合わせをしていた人の片割れに話しかけられたので、
「はーい」と返事をして席を立つ。
After
午前11時30分。
机に戻ってきた。
そうだ、これからプレゼンの資料を作らなければならないんだった。
がんばろ。
パワーポイントのアイコンをダブルクリック。
昨日どこまで作ったかを確認して、次のページを作り始める。
午後1時30分
よし、資料の骨組みはだいたいできた。
あとは細かいところを先輩に聞くだけだ。
ちょっと遅くなっちゃったけど、そろそろお昼の休憩かな。
Me
ストラテラ飲むまではずっと「みんな気力だけでBefore状態と戦っているんだ」と思っていました。
はっきり言っておく。
Afterの状態で「ちょっと努力すれば仕事とか宿題は普通にできるんだから」っていうのは、英語圏で生まれ育って英語で教育を受けてきた人が、
「ちょっと努力すれば普通に英語でビジネスメールぐらいは書けるようになるよ」っていうのと同じだからな!
そりゃあできるよね…ちょっとの努力で、普通にね…。
ちなみに私の場合ですが、ADHDの薬(ストラテラ)飲む前でも、工夫である程度乗り越えられる部分はあったので、薬が合わなくても、薬飲める状況になくても、詰みじゃないよ!ってことはお伝えしておきたいです。
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