卵膜付着でも産めた私の個人的体験⑴
結婚して8年、37才の終わりにようやく妊娠。やっと赤ちゃんに会えると喜んだのもつかの間、超音波検査で「卵膜付着」だと告げられた。簡単に言うと、へその緒が胎盤にくっついておらず、酸素や栄養が赤ちゃんに届きづらい症状だ。医師からは、育たないようだったら出しちゃいましょう。と言われた。
出すってどういう意味?諦めておろすということ?それともお腹から出して保育器か何かで育てるっていうこと?
疑問が駆け巡っていたが、その時はこわくて確認できなかった。卵膜付着が何なのかも分からず、帰ったらネットで調べようとだけ暗澹たる気持ちで考えていた。
しかし私は結局、普通分娩で予定日の1週間前に3118グラムの元気な男の子を無事産むことができた。これから何か障害が見つからないという保証はないが、10カ月経った現在息子は元気いっぱいだ。
今となってはあの時の不安も薄れつつある。忘れてしまう前に、同じ状況で不安を抱えているプレママさんに向けて。そして、いつか子どもがいる幸せを当たり前だと思ってしまうだろう自分に向けて超個人的体験を書き記しておきたいと思う。
ふつう、へその緒は胎盤の中心から出ていて、弾力のあるワルトン膠質というものに包まれ守られている。しかし稀にむき出しのへその緒が卵膜という薄い膜に付着していることがあって、これが卵膜付着だ。
発生頻度は1%前後。新生児死亡との関連が古くから報告されている。へその緒を通して充分な栄養や酸素が届かなかったり、剥き出しのへその緒が子宮内でちょっとした刺激で切れてしまったり。出産のその時にも、へその緒が千切れて赤ちゃんが死んでしまうことがある。
出産前に診断することが難しく、知らずに無事産んで後から気づくケースも少なくない。しかし私は楽観的には受け止められなかった。
頭の片隅でずっと心配しながら、それでもふつうに出勤し、帰宅後は最低限の家事をして過ごしていた。予定日を入力すると妊娠何日目かがすぐ分かるサイトがあったので、しょっちゅうそれを見ながら。22週を超えた時に、肩に乗った不安をひとつおろした。22週を越えれば赤ちゃんをお腹から出しても生存できる可能性がある。
お腹の張りは度々あった。張るのは妊娠中ふつうのこと。いや、赤ちゃんが苦しがってるしるし。ネットで検索しては真反対の情報に振り回されていたある日、等間隔で張りがやってきてお腹がカチカチになった。トイレで確認すると、ショーツに何かの水分がついていた。卵膜の上部が破れる高位破水かもしれない。子宮がギューっと収縮して、まるで赤ちゃんをしぼり出そうとしているかのように感じた。
か細いへその緒が子宮内で折れ曲り、酸素が届かずエイリアンみたいな胎児が苦しんでいる。あたたかく包んでいた羊水もチョロチョロと漏れ出て水位が下がっている。苦しい!助けて!胎児が手足をバタバタさせてもがく。
そうかもしれない。これは妄想じゃなく事実かもしれない。
私は夜9時、急いで病院に連絡をし、タクシーを呼んでかかりつけの大学病院の産科で診てもらった。診断の結果は、破水ではなく単なる尿漏れ。お腹は張っているので張りどめを処方されて終わった。できれば安静に過ごした方がいいけど、無理なら明日から仕事に行ってもいいよ。そう言われた。
安心したけど、私は決めた。安静にしていようと。それも徹底的に。切迫早産と診断されたわけでもない。しかしここで決断しないと後で後悔することになるかもしれない。取り越し苦労だとしても、いいじゃないか。胎児が苦しんでもがくイメージが頭から離れなかった。
その時私は、小さなメディアの編集長をしていた。引き継ぎもまだしていない。まわりに大きな迷惑をかけると分かっていたが、次の日から会社に行くことはなかった。
(2)に続きます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?