ジャケット

ターコイズは出帆の色

この3ヶ月間、月イチで作家の田口ランディさんが主催する「クリエイティブライティング講座」に通っていた。通常の文章講座と違い、心の奥底の記憶にアクセスすることが目的で、ゲームや作業をしながら潜在意識に問いかける…はずだったのだけど、出来たのかどうか、よく分からないまま終わってしまった。(ランディさん、できの悪い生徒ですみません…)でも、とっても面白く学びの多かった講座だった。

講座中に「雰囲気が変わった」と言われて嬉しかった。だけど「おしゃれだね」っていわれるのはどうだろう、それ……いや、どうでも良いと思った服を着てはいないけど、でもーー「頑張ってるね〜」って言われてる気がして、それってダサいってことでは…と煩悶しながらの三回だった。確かに私はこの三ヶ月で変わった。それは、もう二度とモノトーン服は着ないと決めたからもあると思う。

講座に、いつもさりげなく素敵なアクセサリーをつけているひとがいた。

Kさんは初対面の時に、胸元に丸いブルーのペンダントをつけていた。大きさは小指の爪の半分くらいなのに、明るい光を放っている。好奇心いっぱいで、やんちゃな男の子みたいな石だった。右手には、呼応するように柔らかく光る石のリングをはめている。ムーンストーンだ。御本人は物静かで控えめな人柄で、服装も地味なトーンなのだが、その石達が小さな明かりを灯したように良く映え似合っていた。

ひとめで目を奪われて、ついいろいろ聞いてしまった。

「天然石が好きなの。透明度はそう高くないもので、整ってない形のユニークなものに惹かれるの」

それから講座で会うたびに、少しづつコレクションを見せていただいた。

木の実のような赤いペンダントヘッド。双子の小人みたいなイヤリング。アクアマリンという海の水を背負った銀色の亀。桜貝の色のハート型ピンククォーツ。水晶のブレスレットは球形と四面体が複雑に並んで透明な曼荼羅のようで、青と銀色の紙吹雪が舞うスノードーム水晶が中心に輝いていた。

ひとの宝物を、こんなに見せてもらうのは大人になってからは初めてのような気がする。もーーー素敵!!と興奮して身悶えした。御本人のキャラにぴったりの可愛くてユーモアのある石ばかりで、ひとつづつ見せてもらうたびにキャーキャー騒ぎ、うっとり眺めた。

ふと、この石達はKさんを守っているのだなと感じた。何でも、石が持ち主を選ぶのだそうだ。石との波長が合わないと自分の元へは来ないらしい。この石達は、ここへくることを選んで来たのだ。そんな話をしていたら、Kさんが言った。

「でも、そんな大した話じゃなくて、気に入った服を買って着るくらいの気軽なものなの。今日はこの服を着て行こうと選ぶのと同じで。あなたも今日着ている服は、着たいと思ったから着てるでしょ?その服を選んでいるし、選ばれているんだと思う」

服を選ぶ。服に選ばれる。

私がそのとき着ていたのは、青緑を基調にパープルと黄色がアクセントに入ったマルチカラーのボーダー柄ジャケットだった。このジャケットを見た瞬間、講座の最終回に着て行きたいと手に取ったのだ。派手じゃないかと躊躇もしたが、試着したら裾のラインもちょうどよくて、ジャストフィットだった。鏡を見ながら、これターコイズのビーズネックレスと合うなぁ、などと考えていたけど、あれは選んだつもりで選ばれていたのかしら。

1年前の今頃、私は毎日が辛くて、世界は無彩色だった。

黒かグレーか、あるいは2日くらい煮込んだおでんのような色の服しか着られず、仕事から帰って横になると、悪夢を見てうなされていた。私にとって黒は、服従と隷属と無難の色で、心を殺して無表情を保つための盾だった。

でも、私は黙って生きていくことはできなかったのです。

会社を辞めて、何をしたいかを考えたとき最初に浮かんだのは「自分の考えたこと言いたいことを自由に表現する」だった。それで、この講座を選んだのだ。

もう、無意識に黒を着るのは辞めた。

好きな色を選ぶんだ。

今日のイメージはターコイズカラー。よく晴れた空の色。澄んだ湖の色。南の島の海の色。私の誕生石の色。にぎやかで楽しくて明るい、ランディさんのイメージでもある。

そして門出の色。出発の色。

さて、人生は変わるかな? いや、変えてゆきましょう!!

ビビッドにカラフルに、グラデーションしてゆきながら人生はゆく。

色をつけるのは自分。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?